『パリのパン屋さん』を読んで


ひの: 『パリのパン屋さん』は、読むと川村さんが本当に何度も通っているお店ばかりを選んでいるんだなあとわかります。紅茶とあわせて、とかあの公園の帰り道に、とかここに書いている通りに買って食べたい! と思いました。
川村: ありがとうございます。この本の前に出した『パリのビストロ手帖』とは別の意味で、パンのリサーチは大変でした。なんだかんだいって、基本は小麦ですから、味もだんだん分からなくなってきてしまうし、お腹は膨張して消化するのに精一杯(笑)。特にコラム「ベストクロワッサンを探せ!」のために、2日で30個近くのクロワッサンを食べたときはもう……。
ひの&かち: それはすごい! 私たちもよく試食をするけれど、日本のパンは種類の幅が広くって、お菓子のようなパンを食べたら、お惣菜パンを食べるっていう風に、別のパンで口直しができる部分があるので少し楽かなあ。
川村: パンの味自体もフランスの方が、コントラストが強くて、満腹中枢が作動するのが早い気がします。
かち: お菓子も生地の塩味に上のクリームの甘み、とかコントラストがすごくしっかりありますものね。
川村: ここだけの話、しばらくパンのリサーチにはもうあんまり行きたくないですね(笑)。
かち: 初めてのお店で必ず買うパンはなんですか?
川村: バゲットとクロワッサンです。一番シンプルなので、実力がわかる。気になってあれもこれもと、6種類ぐらい買ってしまうときもありますけれど。フランスのパンって大きいので冷凍庫に入りきらないのが困りもの。冷凍庫は一応3段あるんですけれど(笑)。
ひの: お店の人におススメを聞いたりはしますか?
川村: スペシャリテは、大抵ここぞとばかりに、わかりやすく置いてあるのでそれを買います。日本では、初めてのパン屋さんで何を買いますか?
ひの&かち: 食パンが多いですね。
かち: あと私は必ずクリームパンを買います。
ひの: 私は、どこでも置いているわけではありませんが、ミルクフランスっていう練乳クリームを挟んだパンとクロワッサン・オ・ザマンドも。それからお店の人気No.1商品。フランスのパン屋では、人気No.1なんて、店頭に出したりしないですよね?
川村: ないですね。製粉会社に勧められてつくってみましたって出し方はときどきあるけれど、フランス人はあまりそういうものに惹かれないみたい。
ひの: 「パンとパン屋さんの基礎知識」にあった時間帯の話がすごく参考になりました。
川村: そう、行列しているからって、美味しそうな店だと興奮して入っちゃだめですよ(笑)。
ひの: 注文のときにモタモタしてはダメなんですね。みんな買う物が決まっているから。
川村: はい。自分が必死に買い物していると気がつかないけれど、いくつの舌打ちが後ろから聞こえてくることか……(笑)。私も慣れるまでは大変でした。
ひの: 入り口と出口が違うっていうのも面白いなあと思いました。
川村: 多いですよ。日本のようにお客さんが自分で選んでレジに持っていくわけではないので、いかに効率的な動線を描くかってことみたいです。対面式なのは、あるシェフによれば、昔はみんな量り売りだった名残ではないかって。配給制のときもあったし。あとは衛生的な意味もありますよね。日本のようにパンが並んでいたら、フランス人は、落としても平気で棚に戻したりしそうなので……。
ひの: 『パリのパン屋さん』を読んでいてもう一つ気づくのは、いかにパリのパン屋さんが地元と密着した存在かってことでした。お店の人も毎日常連さんがきて、あれね、って感じなんでしょうね?
川村: ええ、最近はフランスも高齢化社会で、一日のうち、会話をするのがパン屋だけっていうお年寄りもいるそうです。朝と夕、2回ずつ買いに来るおじいちゃん、おばあちゃんもいる。そんな地域の人との繋がりを大切にしたいと言っていたパン屋さんもいました。
ひの: 最近は日本でも対面式のお店が増えたようです。でも緊張してしまう人もいるみたい。特に男性とかは。
かち: つくり手としては、きちんとパンの種類も食べ方も説明したいし、お客さんが求めているものも知りたい。そんな思いから、対面式にしたっていうお話をよく聞きますけれどね。
ひの: フランス人はパン屋さんめぐりってしないんですよね? 日本では全国をかけめぐっておいしいパンを探す人が結構いるんですけれど。
川村: 聞いたことがないです。『パリのパン屋さん』の掲載店のなかで、わざわざ徒歩圏外から、乗り物にのって来るお客さんがいる店は「Du Pain et des Idées(デュ・パン・エ・デ・ジデ)」「Des Gâteaux et du Pain(デ・ガトー・エ・デュ・パン)」「Pain de Sucre(パン・ドゥ・シュークル)」ぐらいですね。「Du Pain et des Idées」は、フランス人でもパン・デ・ザミっていうパンをわざわざ買いに来るお客さんが結構いる。これは本当に美味しくって、私のなかではパリで一番魅力的なパンです。お二人は『パリのパン屋さん』のなかで行ったことがあるお店はありますか?
かち: 何軒か。モンマルトルの「Maison Laurent(メゾン・ローラン)」には、入ったんだけれど買わなかったんです。なんとなく買いにくい雰囲気で……。この本を読んでバゲットを買えばよかった……と後悔(笑)。次回こそ。
ひの: 各お店紹介についていた、「メモ」の部分もとてもよかった。かなり率直に書いてあって。このお店のクロワッサンはムラがあるとか(笑)。
川村: メモ欄には実体験を盛り込みました。お店によっては、入るお店を間違えたかと思うほど、味が変わることがあるんですよ。外見も質感も同じなのに。敢えてかって思うほど……。
ひの: いい時に行きたい(笑)。
川村: そうなんです。それぞれのパン屋さんの個性を満喫するには予備知識というかちょっとした注意が必要かなと思って、メモを入れました。パリのパン屋さんって基本的に地元の人のもので、通ってこそ分かる部分もあるので。今回の本では「パン屋」そのものの持つ雰囲気やそこから見えるパリの暮らしそのものを一番伝えたかったんです。
ひの: それはすごく伝わってきました。川村さんが「まえがき」に書いていた通り、お店出たらパクリッというのをやりたくって。パリでは本当に道端で食べている人がいますよね。
川村: まあマナー違反らしいですけど。フランスのお母さんが、赤ちゃんに一番よく与えるのがバゲットの端っこなんです。溶けにくくって、長くしゃぶっていられるから。ちっちゃい頃からそうやって育っているから、パン屋さん出たらパンを食べるっていうのが普通なのかな(笑)。
かち: なんて、贅沢。そうやって育つと全然違うでしょうね。だって粉だけですごく豊かな味がするんですものね。
川村: そうですね。それは日本と違うかも。




川村: でも、今日、あらためて日本のパンの進化は本当にすごい、と思いました。中でもお惣菜パンのような日本発祥のパンは、大切にその味を守っていってほしいです。
ひの: 今日、召し上がったもののなかで特に気に入ったものはありますか?
川村: どれもすごく美味しかったですが、特に自分で買いに行きたいなあと思うのは、「ひじき」と「カレーパン」。次点は「やきそばドッグ」。「豆パン」は地味なんだけど、思い返したら、じわじわとまた食べたくなるかもしれません。
ひの&かち: なるほど、そう来ましたか。やはりボリューミイなものがお好きですね。今度私たちがパリに行ったら、美味しい楽しみ方を是非教えてくださいね。
川村: もちろんです。今日は美味しい思いが出来て楽しかったです。ありがとうございました!
2011年11月 神楽坂にて








1974年、東京生まれ。大学卒業後、渡仏。1999年、パリの料理学校“Le Cordon Bleu”(ル・コルドン・ブルー)に入学。2001年、料理・製菓・パン課程修了。主に日本の女性誌・旅行誌で、フランスおよびパリの食にまつわる記事の執筆・取材コーディネートを手掛ける。また、自身でもフランスと日本の食材をつかった独自の料理研究をすすめている。著書に、『パリのビストロ手帖』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)。


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1999年にスタートしたパンサークル。以来、200回以上のイベントを開催。パン屋さん巡りやイベント開催を通して、「パンと人をつなぐ」をテーマに活動中。

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ハード系お食事パンからお惣菜パン、昔ながらの菓子パンまでなんでも大好きな“雑食系パン好き”。学生時代、初めてのパリ訪問で朝食に食べたクロワッサンとカフェオレには感動! 忘れられないパンの一つ。




ずっと変わらず好きなのはラスク。バリバリ、がりがりという食感が好きで、自称ラスク大臣。パリは何度か訪れていますが、地元の人のまねをして、お店を出たらすぐにバゲットにかぶりつくのが毎回の楽しみ。


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