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今月の1冊


「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」シリーズなど、大人気時代小説を数々手がけ、旅や食、映画といった人生の楽しみを味わう名エッセイも多く残した、大作家・池波正太郎。今年2023年は、池波正太郎の生誕100年にあたります。
 100周年を記念してこのたび新潮文庫から刊行された作品が『まぼろしの城』です。新潮文庫には、激動の戦国時代を生き抜いた真田昌幸、幸村、信之の親子を描いた大河小説『真田太平記』全12巻をはじめ、直木賞を受賞した「錯乱」が収録された『真田騒動―恩田木工―』、『真田太平記』の後日譚に当たる『獅子』などの、いわゆる「真田もの」が集められていますが、この『まぼろしの城』は、実は『真田太平記』の前日譚とも呼べる作品です。

 舞台は上野国、沼田城。城主であり猛将と謳われた沼田万鬼斎は、我が子を跡取りにと目論む愛妾であるゆのみと、その父親である金子の奸計によって、一族に混乱を引き起こします。跡取り争いに巻き込まれた城はやがて、上杉謙信、武田信玄、そして真田昌幸らの狙うところとなり......。戦国時代の波にさらわれる一族の栄枯盛衰をドラマチックに描き、ラストでは『真田太平記』でも大いに発揮された真田昌幸のしたたかな存在感が強い印象を残します。
 池波にとってはライフワークでもあった「真田もの」の原点として、ファンは必読の戦国エンタテインメント作品。生誕100年を迎えた池波正太郎の世界にどっぷりはまるきっかけになる一冊です。

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2023年01月16日   今月の1冊


 ロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル・ギターで、2021年に小説『母影(おもかげ)』(新潮社)が芥川賞候補になった尾崎世界観さんと、小説『しろがねの葉』(新潮社)が今年1月19日発表の直木賞候補作に選ばれている作家の千早茜さん。
 そんな注目の二人による最強コラボな共作小説『犬も食わない』が、新潮文庫に登場しました。
 周りには「なんで付き合ってるの?」と言われてしまう、喧嘩ばかりの同棲中カップルの日常を、男性・大輔視点を尾崎世界観さん、女性・ ふく 視点を千早茜さんが担当。
 同じ日の出来事を男女の視点別に交互に綴り、恋愛中のかっこわるい本音をさらけ出す本作は、2018年10月の単行本刊行当時、全国書店で続々第1位を獲得&大重版を果たしました。
 そして文庫でも勢い衰えず、発売即重版出来です!!

 ブルーが印象的な文庫カバー装画は、映画化された『Strawberry shortcakes』などで人気の漫画家・魚喃キリコさんの『魚喃キリコ 未収録作品集』[上](東京ニュース通信社)所収作品を使用。中扉には、『Strawberry shortcakes』(同)からの一枚を使用しています。
 カバーと中扉共に、長らく魚喃作品ファンである尾崎・千早両著者が選び抜いた一枚。魚喃さんからの快諾を得て、めでたく実現しました。

 さらに文庫特典として、両著者による約30ページの新規対談を収録。共作の思い出や苦労、書き手としての自分の変化、「恋愛」を書くことについてなど、たっぷり語り合います!

【両著者からのコメント】
◆尾崎世界観(おざき せかいかん)
あれから4年が経って、こうして文庫化されることが嬉しいです。
「成長」よりも「相変わらず」が似合う二人を愛しく思います。
ぜひ手に取っていただきたいです。

◆千早茜(ちはや あかね)
4年ぶりに読み返すと、大輔と福は変わらずダメなままでした。
でも、その変わらなさがなんだか愛おしく、4年の間に変わった自分にも気づけました。
既読の方も、未読の方も、都会の片隅に必ずいるであろうダメなふたりの日々を、苦笑しながら覗いてくれたら嬉しいです。

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2023年01月16日   今月の1冊


 大ヒットシリーズとなった『店長がバカすぎて』や新境地にして新たな代表作と絶賛された『八月の母』など、大躍進中の早見和真さん。そんな早見さんの飛躍作となったのが、2020年に山本周五郎賞、JRA賞馬事文化賞をダブル受賞した『ザ・ロイヤルファミリー』です。本作が今月文庫化され、早くも重版が決まりました。

 父を亡くし、空虚な心を持て余す税理士の栗須栄治はビギナーズラックで当てた馬券がきっかけで、人材派遣会社「ロイヤルヒューマン」のワンマン社長・山王耕造の秘書として働くことに。競馬に熱中し、馬主として〈ロイヤル〉の名を冠した馬の勝利を求める山王の情熱に引きずられるようにして、栗須もまた有馬記念への夢を追いかけます。山王と栗須、そして彼らの家族の20年を描く、大河エンターテインメント長編です。

「おっ、競馬の話なのか!」と思った方はもちろん、「なんだ、競馬の話か(自分には関係ないな)」と思った方にも(もしかしたら、そんな方にこそ)、ぜひ読んでいただきたい小説です。なぜなら、本作は競馬を描くと同時に、競馬を通して「家族」という、最も親密で、最も難解な関係性を描いているからです。

 強烈な個性と先見の明をもつ山王ですが、家庭人としては「いい夫」とは言えません。自分勝手で強情、だけど揺るぎない信念で突き進んでゆく。妻や部下ら、たくさんの人が彼から離れていきますが、山王のそんな生き方が、〈ロイヤル〉の名前を冠した馬に思わぬ奇跡をもたらす遠因となります。
 山王とその息子、そして競走馬「ロイヤルホープ」とその息子「ロイヤルファミリー」、二組の息子のドラマに胸が熱くなり、最後の1ページまで興奮が高まりつづける極上の読書体験をお約束します。

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2022年12月15日   今月の1冊


 年の瀬も近づき、今年も残すところわずかとなりました。みなさんにとり、今年はどんな一年だったでしょうか。そして、そんな一年を振り返り、締めくくるのにぴったりな一冊が、この『いちねんかん』です。
 大人気『しゃばけ』シリーズの第19弾となる本作は、両親が湯治に行き、長崎屋が若だんなに託されることになった「一年間」の物語です。若だんなは"頼られる跡取り"をめざし奮闘するのですが、旦那不在となった長崎屋には、さっそく不穏な空気が......そして、商品を狙ういかさま師や、大坂の大店からの無理難題など、次々と困難が降りかかります。妖たちも手助けしようと頑張りますが、果たして若だんなは、この一年間を無事乗り切ることができたのでしょうか?
 作品に描かれているのは「若だんなの一年間」ですが、みなさんの一年間と重なる部分もあるはず。とくに、流行病が江戸に襲いかかる「おにきたる」は、多くの方にとって「自分たちの物語」になるのではないでしょうか。
 また、恒例となっている読者プレゼントも見逃せません。今回は日本橋の老舗・山本山さんとのコラボ企画が実現! しゃばけキャラクターがプリントされたオリジナル缶に入った「山本山×しゃばけ 特製煎茶ティーバッグセット」を抽選で読者300名にプレゼントします。山本山さんの所在地は日本橋で、作中の長崎屋のすぐ近所にあたります。また、創業は1690(元禄3)年で、江戸で初めて「煎茶」を商った店としても知られています。もしかしたら、若だんなたち長崎屋の面々が飲んでいるお茶は、山本山さんの商品だったのかも!? 煎茶を飲みながら、しゃばけの世界に思いを馳せてみてください。

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2022年12月15日   今月の1冊


「お別れの言葉は、言っても言っても言い足りない――」。2021年10月に58歳で急逝した山本文緒さん。ある日突然膵臓がんと診断され、余命宣告を受けてから、夫とふたり暮らす日々のことを書き続けた闘病日記、『無人島のふたり―120日以上生きなくちゃ日記―』が先日刊行され、静かな話題を呼んでいます。
 そんな山本さんが最後に遺した長編小説『自転しながら公転する』が、このたび新潮文庫になりました。

 母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えません。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき? 運命の人は他にいる? と、都はつねに悩んでいます。
 そんな等身大の30代の女性の悩みに寄り添うように、揺れる心を優しく包んでくれるこの物語は、多くの読者を勇気づけ、圧倒的な支持を得ました。そして、2021年の本屋大賞にノミネートされ、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞も受賞しました。

『恋愛中毒』『プラナリア』など、数多くの名作を世に遺した山本さんの新作は残念ながらもう読めません。しかし、本を開けば、そこで山本さんの言葉に出会うことができます。『自転しながら公転する』には、山本さんの時に鋭く、時に優しい、大きな包容力のあるメッセージがあふれています。

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2022年11月15日   今月の1冊