発売とともに大好評をいただき、店頭から幻のように消えてしまった『百年の孤独』文庫版ですが、また店頭に並ぶ頃合いかと思います。入手しづらい状態となってしまい、申し訳ありませんでした。
本作は同名の人物が大量に出てくるとか、人物がなんの断りもなく生き返ったりまた死んだりするらしいなどと、都市伝説的に語られてきましたが、はじめから伝説的な作品だったわけではありません。1972年に出版された単行本は絶版通告の前に立つはめになり、初版4000部が売り切れるまでに丸5年という長い歳月が過ぎ、恐らくこの本を最初に見出した新潮社の大先輩である塙陽子さんは、飛ぶようにこの文庫版が売れていく、遠い未来のことを予想できなかったにちがいありません。
スペイン文学者の鼓直先生がこの作品を鋭意翻訳中だった1970年のこと。まだ駆け出しの書き手であった池澤夏樹さんは、丸善洋書部の宮原隼人さん(故人)にこの作品を薦められ、たちまち夢中になって長大な要約と詳細な家系図を作成。『ブッキッシュな世界像』や『世界文学を読みほどく』といったご著書内で「読み解き支援キット」として発表してきました。このたび当社ウェブサイトより誰でも無料でダウンロードできるものとしてご提供いただけました。この場を借りて感謝申し上げます。ぜひ文庫版に挟んでお持ち歩きいただきたいと思います。
「50年も文庫化しないとは何事か」とお叱りを受ける日々ですが、この物語の主人公であるブエンディア一族の人々の劇的な百年に比べれば半分。先人たちがこの作品を日本語で読めるよう汗をかいてきた長い時間を味わっていただき、ご容赦いただければ幸いです。