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誰よりもか弱いのに、誰よりも名推理! それは強い味方が憑いているから!?

  • 舞台化ミュージカルしゃばけ(2017年1月公演)
  • ラジオ化しゃばけ2(2006年9月NHKオーディオドラマ)

ぬしさまへ

畠中恵/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2003/05/22

読み仮名 ヌシサマヘ
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 250ページ
ISBN 978-4-10-450702-3
C-CODE 0093
ジャンル 歴史・時代小説
定価 1,404円

江戸の大店の若だんな・一太郎は、めっぽう身体が弱く寝込んでばかり。そんな一太郎を守っているのは、他人の目には見えぬ摩訶不思議な連中たち。でも、店の手代に殺しの疑いをかけられたとなっちゃあ黙っていられない。さっそく調べに乗り出すが……。病弱若だんなと妖怪たちが繰り広げる、痛快で人情味たっぷりの妖怪推理帖。

著者プロフィール

畠中恵 ハタケナカ・メグミ

高知県生れ、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学卒。漫画家アシスタント、書店員を経て漫画家デビュー。その後、都筑道夫の小説講座に通って作家を目指し、『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。また2016(平成28)年、「しゃばけ」シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞する。他に「まんまこと」シリーズ、「若様組」シリーズ、『つくもがみ貸します』『アコギなのかリッパなのか』『ちょちょら』『けさくしゃ』『うずら大名』『まことの華姫』などの作品がある。また、エッセイ集に『つくも神さん、お茶ください』がある。

しゃばけ倶楽部~バーチャル長崎屋~ (外部リンク)

書評

波 2003年6月号より 明るい小説  畠中恵『ぬしさまへ』

鈴木光司

 小説は、負のエネルギーによって書かれるものが多い。これまでの日本の小説は特にその傾向が強く、明るく希望に満ちた作品は少数派に属するような気がする。たとえば、武者小路実篤のような、人生を正面から肯定しようとする態度は、現実離れした思想主義と揶揄されがちであるが、稀有な個性としてぼくは大いに認めたい。暗さ、重さ、深刻さこそ小説の条件であるかのごとくもてはやされ、能天気な明るさを盛り込むと、とたんに小説らしさが失われると考えられがちだ。小説というメディアは、「明るさ」よりも「暗さ」のほうが似合う。
昨今のエンターテイメントを見ても、登場人物たちの過去に深刻なトラウマを負わせ、その克服をストーリー展開の牽引力としてラストのカタルシスに導こうとするケースが多々見られる。
確かに、そのほうが小説は書きやすい。ぼく自身、『らせん』を執筆していて、主人公のキャラクター作りに苦しみ、物語が動かなくなってしまったとき、幼いわが子を不注意で亡くしているというトラウマを、主人公の過去に書き加えたところ、思わぬ方向にストーリーが流れ始めたという経験がある。
では、逆に、明るく能天気な小説は、書くのに難しいのか。綱渡りになるだろうとは思う。一歩間違えれば、それこそ小説らしさは失われるけれど、うまくすれば他には見られない独自の世界を築くことができる。いずれにせよ、危ない橋を渡ることになるため、明るい小説執筆に挑む作家は少ないのではないか。
ぼくも選考委員に名を連ねる日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を『しゃばけ』で受賞してデビューされた畠中恵さんは、そんな少数派のひとりとお見受けする。
本作『ぬしさまへ』はその続編にあたる。舞台は徳川期の江戸。主人公は廻船問屋兼薬種問屋を営む大店の若だんな、一太郎。病弱ですぐに寝込む跡取り息子で、両親から溺愛されるさまは、「大福を砂糖漬けにしたようなもの凄い甘さ」と表現される。この若だんなには、佐助と仁吉という、ふたりの手代が片時も離れずにつき従う。「天上天下に一番の大事は若だんなと心得る」この二人は、水戸黄門ならば助さん格さんといったところで、腕っ節は強く、実に頼りになる。それもそのはず、ふたりは人間に姿を変えた妖怪であり、またの名を犬神、白沢というのだ。
一太郎の元に集うのは、佐助、仁吉を始め屏風のぞき、鳴家といった妖怪たちで、にぎやかなことこの上ない。かわいいキャラクター満載でどいつもこいつも絵になる奴ばかりだ。
さて、病弱な若だんなと妖怪たちがどんな活躍をするかといえばこれがなんと捕物帖。自分に思いを寄せる女が殺され、嫌疑をかけられた仁吉のために真犯人を探したり、親友の作った菓子を食べた直後に死んだ老人が仕掛けた罠を暴いたりと、この若だんな、病弱ながら世のため人のため、知力を尽くして、東奔西走する。
金持ちの家に生まれ、両親から溺愛され、何不自由なく育ってきたせいかどうか、一太郎は、心が優しく、ものすごくいい奴として描かれる。普通なら、主人公に何らかのトラウマでも持たせるところだろうが、そんなものはまるでなく、パターンを無視した設定がぼくの目には好ましく映る。パターンにはめれば、さらに小説は書きやすくなるからだ。
このユーモアと愛嬌いっぱいの世界は、作家自身のキャラクターによって作り出されているに相違なく、となると、畠中さんって、作家らしからぬすごくいい人間なのではないかと邪推したくなる。作家にとって一番嬉しいのは人格ではなく作品を褒められることと承知の上で、作家のキャラクターに惹かれてしまうのだ。たぶん、ほんわかと暖かく、善意に満ち、ユーモアたっぷりの面白い人に違いない。
「虹を見し事」のラストで、作者は、一太郎にこう独白させる。
「私は……私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように」
なんという善人。よりよく成長したいと願う一太郎の姿は、ビルディングスロマンの香りを漂わせ、これまたさわやかな読後感だ。
たまには明るい小説もいい。

(すずき・こうじ 作家)

目次

「ぬしさまへ」
――大モテの仁吉さんの袖にはいつも山ほどの恋文が入れられているのですが、今回の恋文は百年の恋も冷めるほど字が汚い! なんとか差出人の名前だけは判読できた若だんなですが、その本人が火事の最中に殺されてしまい、仁吉さんに疑いがかけられてしまいます。
「栄吉の菓子」
――栄吉さんが作った茶饅頭を食べて、三春屋の常連客のご隠居が死んでしまうなんて!? 噂は広まり、三春屋の売り上げは、もちろん大激減。落ち込む親友のために、若だんながご隠居の死の真相究明に乗り出します。
「空のビードロ」
――松之助さんが桶屋東屋でご奉公していた頃のお話です。長崎屋にご奉公することになったきっかけや理由は、『しゃばけ』とこのお話をお読みいただければわかりますよ。
「四布(よの)の布団」
――若だんなのために仁吉さんが注文した布団から、夜毎、面妖な泣き声が……。どうやら手違いで古物が届いてしまったようなのです。翌日、腹の虫がおさまらない藤兵衛様と仁吉さんに連れられ、若だんなは繰綿問屋の田原屋へ。そこで若だんなが出会ったのは、通い番頭の死体でした。
「仁吉の思い人」
――薬を飲んだら仁吉の失恋話を聞かせてあげますと佐助さんにそそのかされ、苦いクスリを飲み込んだ若だんな。あの仁吉が失恋だなんて、若だんなは信じられなかったのですが、仁吉さんには辛い辛い失恋の思い出があったのです。しかもそのお相手とは……。
「虹を見し事」
――やかましいくらいの妖たちが忽然と若だんなの前から姿を消してしまいました。手代の二人も別人のよう。あまりに奇怪な状況に、若だんなは自分は誰かの夢の中に入ってしまったのだと推理し、そこから出ようとなさいます。しかし、この時ばかりは若だんなの推理も大正解ではなかったようなのです。

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