
いつまで
1,595円(税込)
発売日:2023/07/20
- 書籍
- 電子書籍あり
シリーズ17年振りの長篇! 若だんなが行方不明になり、長崎屋の不運が幕を開けた。最大の窮地を乗り越えられるの!?
長崎屋から妖が消えた! 最初は噺家の場久、次は火幻医師。彼らを探すため、影内に紛れ込んだ病弱若だんなは、すべて西から来た妖・以津真天の仕業だと知る。大事な友を救うため、果敢に悪夢に飛び込んだ若だんなだが、目覚めた先はなんと五年後の江戸。鍵を握るのは、以津真天なのか、それとももっと大きな力なのか……。
書誌情報
読み仮名 | イツマデ |
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装幀 | 柴田ゆう/装画、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-450730-6 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 1,595円 |
電子書籍 価格 | 1,595円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/07/20 |
書評
推し妖、久々の登場に歓喜!
畠中恵さん原作の『しゃばけ』をコミカライズさせていただいた、漫画家のみもりです。
『しゃばけ』との出会いは、お仕事のご依頼をいただく前でした。妖怪好きな私に家族が、「妖怪の出てくる小説があるよ」と教えてくれたのがきっかけです。
柔らかい響きのタイトルだなと思いながら、書店へ向かって手にした『しゃばけ』の装画はほんわかした印象で、可愛らしいお話なのかなと、思い込んでしまいました。
冒頭で説明されていた「しゃばけ」という言葉の説明も深く気にとめることなく読み進めたら、まさかの殺人事件勃発! しかもかなり猟奇的!! ビックリしました。私は、人間のドロッとした感情を浴びすぎるとメンタルが疲弊してしまう傾向があるのですが、『しゃばけ』は、穏やかな性格の若だんなと個性的な妖達とのやりとりが、次々と起きる事件の辛さや犯人のドス黒い部分を緩和していて、心が疲れるどころか、「これだけ温度差のある要素を見事に調和させていて、すごい!」と感嘆し続けながら、読了しました。そして再び冒頭に戻ってようやく、タイトルの意味に、「色々な人と妖の『娑婆気』を書いた作品なんだから、これ以外あり得ないんだ!」と気付き、驚嘆しました。
その後、「小説新潮」2014年7月号に掲載された連載「しゃばけ漫画」十一ノ巻で、「しゃばけ」シリーズの短編「仁吉の思い人」(『ぬしさまへ』所収)を、2017年3月号から「コミックバンチ」で『しゃばけ』のコミカライズ連載を任せていただきました。緊張のまま2023年6月にコミカライズ単行本最終刊を刊行し、とにかく今は無事に終えられたことを、ホッとしております。当初の予定より長めになってしまったので……。支えてくださったすべての関係者の皆さまには、感謝しかありません。
私はコミカライズ作品が多いのですが、コミカライズにあたって、いつも二つのことに気をつけています。まず何より、原作の先生やファンの方々を失望させないよう大切に描き、できることならば皆さんに喜んでもらえるよう、漫画ならではの面白さを追求すること。そして、原作挿画(今回なら柴田ゆうさん)のイラストイメージを崩さないことです。お恥ずかしいことに私は、江戸時代に明るいわけではないので、本作では資料の探し方、キャラクターの魅せ方など、すべてが勉強になりました。「しゃばけ」シリーズは若だんなの成長譚と思いますが、私自身、この作品を通じて、とても成長させていただきました。
キャラクターを描く上でとりわけ悩んだのは、髪型です。現代物のコミカライズの場合、髪型に変化をつけることで個性を出せますが、江戸時代は、身分や仕事、年齢で髪型が決まっているので、それが通用しません。妖はさらにどうしようかと思いましたが、「妖だからね!」という私の勝手な解釈を許していただき、自由に描けたので、ありがたかったです。おかげさまで全ての登場人物を楽しく描けましたが、とりわけ鈴彦姫は筆がのりました。もっと描きたかったですね。ちなみに、好きなキャラクターは屏風のぞきです。なんやかんやいじわるを言っても優しいところがたまらないです。
シリーズ最新作『いつまで』はなんと17年振りの長編とのことで! ワクワクドキドキ、そしてハラハラしつつ楽しく拝読いたしました。実は、シリーズの中で印象深い妖がいるのですが、その妖も少し登場してくれて、うれしかったです。「あの妖がこういう関わりで繋がってくるの……!?」という驚き、そして、「若だんなも、あの妖のこと、忘れていなかったんだね」という喜び、他にもたくさんの感情が入り混じって、私の心は大騒ぎでした。『いつまで』を読み、若だんなたちの未来がますます楽しみになりましたし、騒動を巻き起こした妖が今後どうなっていくのかも、とても気になります。
実は、『いつまで』というタイトルを拝見したときに真っ先に思い浮かんだのが、「この原稿の〆切いつまでなの!?」でした(笑)。私にとって「いつまで」は、“制限時間”という印象が強いのでしょうね。でも、“いつまでも”という意味合いでこの言葉を使えたら素敵ですよね。「いつまでも絵や漫画を描いていたいな」「いつまでも楽しく過ごしたいな」って。そういう風に生きながら何より、妖怪をもっともっと! いっぱい描き続けていきたいです。
(みもり 漫画家)
波 2023年8月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
畠中恵
ハタケナカ・メグミ
高知県生れ、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学卒。漫画家アシスタント、書店員を経て漫画家デビュー。その後、都筑道夫の小説講座に通って作家を目指し、『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。また2016(平成28)年、「しゃばけ」シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞する。他に「まんまこと」シリーズ、「若様組」シリーズ、「つくもがみ」シリーズ、「佐倉聖の事件簿」シリーズ、「まことの華姫」シリーズ、『ちょちょら』『けさくしゃ』『うずら大名』『わが殿』『猫君』『御坊日々』『忍びの副業』などの作品がある。また、エッセイ集に『つくも神さん、お茶ください』がある。