ひなこまち
1,540円(税込)
発売日:2012/06/29
- 書籍
お江戸のみんなが、困ってる!? 大人気「しゃばけ」シリーズ最新刊。
いつも元気に(!?)寝込んでる若だんなが、謎の木札を手にして以来、続々と相談事が持ち込まれるようになった。船箪笥に翻弄される商人に、斬り殺されかけた噺家、霊力を失った坊主、そして恋に惑う武家。そこに江戸いちばんの美女探しもからんできて――このままじゃ、ホントに若だんなが、倒れちゃう! シリーズ第11弾は、いつもの年より一月早いお届けです!
目次
ろくでなしの船箪笥
ばくのふだ
ひなこまち
さくらがり
河童の秘薬
ばくのふだ
ひなこまち
さくらがり
河童の秘薬
書誌情報
読み仮名 | ヒナコマチ |
---|---|
雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-450716-0 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | SF・ホラー・ファンタジー |
定価 | 1,540円 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2012年7月号より [畠中 恵『ひなこまち』刊行記念対談] 知らない世界は面白い
いつも幸せな気分/好みが似ているのかも/理由がわかりました/ 新しいものが始まる前に/仕事のスタイル/知らない世界は面白い |
いつも幸せな気分
相武 今日はお会いできてうれしいです。母も姉も「しゃばけ」シリーズが大好きで、畠中さんと対談することになったよ、と言ったら大喜びしていました。特に母がはしゃいでいて、自宅にある「しゃばけ」シリーズを並べて、写真に撮ってメールで送ってくれました(笑)。
畠中 こちらこそ、うれしいです。私も相武さんとお会いすることが決まって、思わず、もし演じていただけるとしたら、誰がいいかなと、ひとりで想像して楽しんでいました。『ひなこまち』に登場する女性キャラクターだったら、禰々子さんでは荒っぽすぎるし、武家の奥方の雪柳さんかな、とか。
相武 雪柳さんの名前が初めて出てくる、第四話の「さくらがり」はすごく好きなお話なんです。わくわくしながら夢中になって読みました。これはいったいどういうことなんだろうと感じた、謎めいた秘密のようなものが、その次の最終話「河童の秘薬」を読み終えたときに、「なるほど!」と思えるかたちで解決されていて、とてもすっきりしました。あれは、こういうことだったんだ、と。「しゃばけ」シリーズは、読後感が心地よいですよね。読み終えたときにはいつも、幸せな気分になります。
好みが似ているのかも
畠中 光栄です。いつ頃から「しゃばけ」シリーズを読んでくださるようになったんですか。
相武 初めて読んだのは、五、六年くらい前だったと思います。ドラマも拝見しました。この役者さんがこのキャラクターを演じるんだ! と自分がイメージしていた「しゃばけ」ワールドの雰囲気とは少し違っている部分もあったけど、それが逆に新鮮で、気づかなかった魅力も発見でき、面白かったです。文庫の『しゃばけ読本』に入っている上橋菜穂子さんとの対談も読みました。お二人ともすごく好きな作家の方で、著作もたくさん読んでいるんです。
畠中 私も上橋さんの小説は大好きです。相武さんが、恩田陸さんや伊坂幸太郎さんもお好きだというのをどこかで見たことがあって、私もお二人が好きなので、小説の好みが相武さんと似ているのかもしれないと思いました。
相武 面白い物語を読むのは大好きなんです。それで、作家の方たちは、どんなことを感じたり考えたりしながら、小説を書いているんだろうと、以前から興味があって。畠中さんと上橋さんの対談を読んだときに、物語の作り方は、人によって全然違うものなんだと驚きました。今回の『ひなこまち』は、『ころころろ』や『ゆんでめて』みたいに、一話完結の短編が並んでいて、最後に一冊を通じて流れていた大きな問題が解決する、長編的な要素もありますよね。そういう複雑な構成の本を書かれるときには、最初からなにもかもを決めて書かれるんですか。それとも書きながら、途中で全体像が見えてくるものなんですか。
畠中 私の場合は、書き始める前からすべてを完璧に決めているわけじゃないんです。何となく、こういう雰囲気のお話になるだろうという、物語の輪郭みたいなもの、おおまかなプロットは作っているんですが。ただ、キャラクターたちが、私から少し離れて各自勝手に動き始めることもあります。ここでこう動いてくれたら都合がいい、そういう方向に登場人物を追い込もうとするんですけど、自分たちの行きたいように進んでいくこともあって。「好き放題やりたい放題はやめてくれ~」としかりたくなることもあります(笑)。最初はそんなつもりじゃなかったのに、急に存在感を増していくキャラクターもいたりして、面白いですよ。逆に、今回は登場させようと決めていたのに、書き終えたときに、あれそういえばあの子が出てこなかった、ということもあります。不思議です。
理由がわかりました
相武 私の好きなキャラクターたちも、勝手に動き出しているのかもしれないと思うと、楽しいです。一太郎さんや鳴家、貧乏神さんと愛着のあるキャラクターはたくさんいるんですが、『ひなこまち』には出てきませんでしたけど、栄吉さんが大好きで。いつかは美味しいお菓子を作って欲しいと、願っています。
畠中 そうなるといいんですけど。なかなか、難しいかもしれません(笑)。
相武 ずっとお菓子作りが下手なままで、自分のだめな部分も分かっていて、それでも悩みながらがんばっている栄吉さん、すごく愛らしいですよね。「しゃばけ」のキャラクターのなかで、私自身にいちばん似ているのは、栄吉さんかもしれません。「しゃばけ」を読むようになって、かりんとうがすごく好きになったんです。和菓子全般も、気になるようになって。もしかしたらそれも、栄吉さんの影響なのかも(笑)。畠中さんは、和菓子を作ったりされるんですか?
畠中 もともと洋菓子作りが趣味だったんです。和菓子もたまには作っていたんですけど、作り方が単純なだけに、洋菓子よりも難しい。きっちり計って作ってもなんか違う……、みたいな感じで。いまは自分で作るよりも、江戸時代と同じ方法で作られた和菓子を食べることの方が多いですね。当時の作り方が残っているんですよ。
相武 やっぱり調べ物をするために、本はたくさん買われるんですか?
畠中 資料はどんどん増えていきます。将来、何の話に使えるか具体的にはわからないけど、いつか使うことになるかもしれないと、次から次に買ってしまいます。実際、そうやって買った資料が役にたったこともあるんです。
相武 私は時代物をたくさん読んでいるわけでもないし、歴史の知識も豊富なわけではありません。時代小説を読んでいるときに、なにが書かれているのか良く分からなくて、頁をめくるのが大変なこともあります。でも「しゃばけ」シリーズを読んでいるときには、当時の風景とか人間の心情とかが、頭の中にすっと浮かんできて、ひっかかりを覚えることなく物語に入っていけます。いまこの文章で江戸時代のことを説明されている、と意識することもなく、物語を楽しみながら自然とその時代の空気のようなものが感じられるんです。
畠中 そうおっしゃっていただいて、とてもうれしいです。当時のことをお話のなかに説明的なかたちで書いてしまうと、流れが止まってしまうような気がしているんです。江戸時代の言葉や概念については、読者の方がお話を楽しむ邪魔にならないように、届けたいなあと思っています。
相武 まさにそうやって読ませていただいています。「しゃばけ」シリーズを読んでいて、これは何のことだっけなあと、前の方に戻って読み返すことがほとんどなかったんです。その理由がいま分かりました。
新しいものが始まる前に
畠中 うれしいなあ。そういってくださると、本当にうれしいです。新作を出すときは、うまくいくかなといつも不安で、刊行前に神社にお参りにいっているんです。相武さんも、来月から新しいドラマが始まりますよね。何か新しいものが始まる前には、楽しみもおありになるんでしょうけど、不安になったりはしませんか?
相武 確かに、少しはあります。でも、不安はあるんですけど、私はドラマ、特に連続ドラマが大好きで。一話、二話では、結論が出ないところに魅力を感じているんです。役者さんたちも日常生活を続けていきつつ、ドラマのなかでも時間が過ぎていく、そういう変化し続けていく感じが、好きなんです。途中で、どう演じればいいのかなとか、あそこは違う演じ方ができたなと思い悩むこともあるんですけど、最終回という目標にむかって、そこでリベンジしてやる! という気持ちにもなって。自分の性格にあっているなと思っているんです。やりがいがある、というか。
畠中 新刊が出ると、つい書店さんにのぞきに行ってしまうんですが(笑)、相武さんは、いかがですか。ドラマが始まったら、ご覧になられますか?
相武 最初の一話が完成したときには、一回は観ます。だけど、撮影中はなるべく、頻繁には観ないようにしています。
畠中 しばらく時間をおいてから読み返すことはありますが、私も、自分の小説が本になってすぐには、なかなか読めないんです。雑誌に掲載されたものも「しゃばけ」シリーズは、連載から本になるまでの期間が短いのでそうでもないんですけど、少しずつ書きためていっているタイプのものは、雑誌に載ってすぐに読み返したりすると、ここもあそこも直したいと、つい思ってしまうんです。現代物を書いているときは違うんですけど、自分が時代物を書いているときには、ひきずられてしまいそうな気がして、同じ時代を扱っている小説を、読めないこともたまにあります。
相武 撮影中にドラマを観すぎると、つい、自分のあらさがしみたいになっちゃうので。ある程度、作品と距離ができてから観るほうが、楽しいですよね。時々ですけど、撮影の途中で煮詰まったり、どう演じればいいのか迷ったりしたときには、一話目から通して観て、作品と向きあうこともありますし、新しいドラマの撮影が始まる前に、前のドラマをみて、自分はこういうお芝居をしているんだ、こういう癖があるんだ、と気づいたりして、それを体の中に入れてから、新しい作品に入ったりはします。でもやっぱり、全部撮り終えたあとで、家族と一緒に観るときが、いちばんほっとできますね。
仕事のスタイル
畠中 私は地下鉄に乗りながら大きな書店さんをぐるぐると歩きまわって、小説のプロットを考えることが多いんです。アイデアを思いついたら近くの喫茶店に入って書きとめておき、家に帰ってパソコンにむかい、小説を書き始めます。それが仕事のスタイルのようなものなんです。相武さんは、ドラマの脚本をいつも決まった場所で読まれているんですか?
相武 作品によって、結構違うんです。演じる人物が自分に似てないなと感じた場合は、彼女を知りぬかないと愛情が持てないような気がするので、家でも外でもいろんなところに持ち歩いて気が向いたときにめくっています。そうやって、そのときに感じたことを記憶する、浮かんだ感覚を心のどこかに置いておくんです。逆に、一度脚本を読んで、自分に似すぎているというか、人物に深く入り込みすぎるとこの役をうまく表現することができないかもしれないと感じたときは、一、二回眺めて、あとはしばらく読み返しません。現場に入る車のなかで開いて、最後の確認をし、そのまま撮影に入ります。
畠中 小説を読んでいるときに、お気に入りのキャラクターを見つけて、その役をやりたい! と思われることはあるんですか。
相武 そういう方もいらっしゃるみたいですが、私は、一読者として本を読むのが好きなんです。ですので、本の中のある登場人物になりきって、読み進めることはあんまりありません。脚本を読むのに慣れてくると、自分の役にフォーカスして物語をつかむようになってしまって。小説を読んでいるときに、そういう読み方をすると、楽しめなくなってしまうといえばいいんでしょうか。たとえば、物語全体としてはハッピーエンドなのかもしれないけど、自分がこの役を演じたいと思った人物にとってはそうじゃないことももちろんあるでしょう。そういうときに、悲しみや切なさの方が強調されてしまったりして、素直に小説を面白がれないような気がするんです。小説を読むときに頭の中に浮かんでいる登場人物たちは、リアルな人間というよりも、アニメーション風のものをイメージすることが多いです。
畠中 お仕事をされる前からですか?
相武 女優になる前は、昔からすごく好きな、冒険する女の子が主人公のファンタジー小説なんかを読んでいるときには、主人公に自分自身がなりきって、登場人物が食べているお菓子やサンドイッチを読みながら一緒に食べたりすることもあったんですけど。いまは、楽しむための物語は物語、脚本は脚本、と別物として読むことが多くなった気がします。この役を演じたい、と思った途端に、どうしても、仕事という感覚が出てきてしまうんですね。
知らない世界は面白い
畠中 今日はとても面白かったです。知らない世界のことを教えていただけて。もしかしたらいつか「しゃばけ」シリーズに、役者さんのキャラクターが登場するかもしれません。
相武 ぜひ! こんどまた実写化されるようなことがあれば、呼んでいただけるとうれしいです。誠心誠意、やらせていただきます。でも、この役をやりたい! と思いながら「しゃばけ」を読むことはしないようにします。楽しめなくなると、さみしいですから(笑)。
畠中 ありがとうございます(笑)。
(あいぶ・さき 女優)
(はたけなか・めぐみ 作家)
(はたけなか・めぐみ 作家)
著者プロフィール
畠中恵
ハタケナカ・メグミ
高知生まれ、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学ビジュアルデザインコース・イラスト科卒。2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。ほかに『ぬしさまへ』『ねこのばば』『おまけのこ』『うそうそ』『ちんぷんかん』『いっちばん』『ころころろ』『ゆんでめて』『やなりいなり』『ひなこまち』『たぶんねこ』『すえずえ』『なりたい』『おおあたり』『とるとだす』『むすびつき』『てんげんつう』『いちねんかん』『もういちど』『こいごころ』『いつまで』、ビジュアルストーリーブック『みぃつけた』(以上『しゃばけ』シリーズ、新潮社)、『ちょちょら』『けさくしゃ』(新潮社)、『猫君』(集英社)、『あしたの華姫』(KADOKAWA)、『御坊日々』(朝日新聞出版)、『忍びの副業(上)・(下)』(講談社)、『おやごころ』(文藝春秋)、エッセイ集『つくも神さん、お茶ください』(新潮社)などの著作がある。
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