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親子で読める新潮文庫




 忙しい毎日のなか、「不思議」、足りてますか? ビタミンやカルシウムと同じくらい、「不思議」は大切ですよ~。
 新潮文庫今月の新刊から、「不思議」がいっぱいの2冊をご紹介します。小学生から楽しめる『シノダ! チビ竜と魔法の実』と『下町不思議町物語』。小中学生のみならず、大人が読んでも楽しい作品です。
 児童書の世界で知らぬ者のない富安陽子さんの『チビ竜と魔法の実』は、「パパが人間でママがキツネ」という信田家に生まれた3人姉弟妹が冒険を繰り広げる大人気シリーズの第一弾。キツネ族の親戚たちは、信田家に次から次へと厄介ごとを持ち込みますが、一家は団結、キツネ族から受け継いだ特殊能力を生かしながら困難を乗り越えていきます。
 今回の騒動のもとは、タイトルにもある通り、小さな竜=チビ竜です。想像してみてください。ある日、小さな竜が自宅のお風呂に住みついて、湯気で作った雲の巣を天井付近に漂わせ、ケケケッと笑う情景を。楽しいでしょう。でも、小さくても竜は竜。やがて成長して空にのぼっていきます。その時、信田家に何が起きるのか……、あとは読んでのお楽しみ。

 子供のころ、小人(こびと)がいないか葉っぱを裏返してみたことがある人、夜中にオモチャが動いていないかこっそり起きて確認した人、魔女を探して夜空をながめた人……こんな経験のある方はぜひ読んでみてください。胸のときめきが蘇ってきます。
 蘇らせるまでもなく、いまも「不思議」世界のまっただ中という方にも、もちろんお勧めです。ユイ、タクミ、モエと一緒に物語の世界を探索してください。我が家の小2もこのお話に没頭していました。もともと長風呂が好きな彼、天井にチビ竜がいる姿でも思い描いているのではないかと思います。

 もう一冊は、『下町不思議町物語』。大ベストセラー『妖怪アパートの幽雅な日常』(シリーズ累計300万部!)『僕とおじいちゃんと魔法の塔』で知られる香月日輪さんが描く、これまた、「ふつうの暮らしのすぐ隣にある不思議な世界」のお話です。
 親の離婚によって「西の方から」転校してきた小学6年生の直之(なおゆき)。病気をしたせいで体が小さく、方言が違うために学校でもおばあちゃんの家でも居心地の悪い思いを味わう彼が、ある日、迷い込んだ「どこかなつかしい街並み」。そこでは、幽霊やらネコタクシーやら、正体の知れない古本屋さんやら……常識外の存在が、当たり前のような顔をしています。そして、その中心にいるのが、直之が「師匠」と慕う修繕屋の高塔(たかとう)さん。
 香月作品に共通するのは、「人生は長く、世界は果てしなく広い。肩の力を抜いていこう」という精神。「妖アパ」でおなじみのフレーズですね。『下町不思議町物語』からも、「違ってもいい。違うからこそいい。相手をありのままに受け入れよう」というメッセージが伝わってきます。
 ところで、この本の解説を書いてくださったのは、『若おかみは小学生』(累計170万部)シリーズ作者の令丈ヒロ子さん。実は香月さんと令丈さん、とても仲良しなのです。詳しくは、解説を読んでみてください。

 今月はもう一冊、若い読者にお勧めしたい『それはまだヒミツ―少年少女の物語―』(今江祥智編)という本もあります。十代の心のうちをリアルに描く笑いと涙のアンソロジーです。
 新潮文庫では、これからもティーンの心に響く作品を出していく予定です。ご注目ください。

(新潮文庫編集部A・K)

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2012年02月10日   今月の1冊
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