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きっかけはテレビ!

 Yonda?Mail購読者の皆さん、こんにちは。

 たとえば10年前のテレビと最新のテレビが同じ値段で売られていたら、皆さんはどちらを選びますか?
 たぶんお尋ねするまでもなく、最新の製品を選びますよね。家電に限らず、商品の機能やデザインは日進月歩していますから。

 では本の場合はどうでしょう。「昔の小説より今の小説の方が必ず優れている」とは言えません。あるいは「今のノンフィクションの方が、昔のものより真相を衝いている」とも言い切れません。むしろ時代を超え、多くの読者に吟味され残っていること自体、良作の証ではないでしょうか。

 しかし、いざ書店で棚の前に立つと、平積みされた最新作と比べ、棚に並ぶ既刊本には手を伸ばしにくいのが現実です。タイトルと著者名だけで作品の良さは計りかねます。既刊本へ手を伸ばすには、何らかの「きっかけ」が必要ではないでしょうか。

 ところが特定の既刊本が全国の書店から一斉になくなり、注文が殺到することがあるのです。そういうときに原因を調べると、テレビ番組でその本が取り上げられているケースが往々にしてあります。

 果たしてどのような番組をきっかけに既刊本は再び注目を浴びるのか。新潮文庫の事例をご紹介したいと思います。


かんさい熱視線(NHK大阪)
 昨年7月、関西方面の各書店で新潮文庫『漂流』が突然売り切れになりました。江戸時代の漁師が無人島に流された史実を元に、吉村昭さんが筆を執ったノンフィクションですから、最初は漂流事件が起こって脚光が当たったのかと思いました。ところが調べてみると、関西ローカルの情報番組「かんさい熱視線」が、『漂流』をクローズアップしていたと分かったのです。
 番組ではかつて自分の会社を倒産させた男性が登場し、人生の転機となった1冊『漂流』について語りました。日払いの仕事などを転々とし、失意のどん底にあった男性が古本屋で出会った『漂流』。男性は何度も読み返し、孤島で12年の月日を耐えた男たちの境遇に自分を重ね合わせました。仲間を次々と失いならがも主人公が発した「石にかじりついてでも帰国しよう」という言葉を、男性はまるで自分に向けて語られたように思えたそうです。そして、絶望の底から立ち上がった男性は、7年間努力し続け、やがては会社経営を任されるところまでになった、というドキュメンタリーでした。
 迷える若者にぜひ『漂流』を読んで欲しいという男性の真摯なメッセージは、視聴者の心に届き、それをきっかけとして多くの方々に買い求めていただけたようです。番組で『漂流』を知って良かった、読んでみて良かったという数多くの声を、今でもネット上で見ることができます。


雨上がり決死隊のトーク番組アメトーーク!(テレビ朝日系列)
「家電芸人」など、ユニークな切り口で繰り広げられるトークバラエティ番組。今年の2月に放送された「読書芸人」の回には、ピースの又吉直樹さん、スピードワゴンの小沢一敬さんら読書好き芸人と一緒に、オアシズの光浦靖子さんが登場。おすすめの1冊として『わが性と生』を強力にプッシュしていただきました。
 出家した瀬戸内寂聴さんと出家前の瀬戸内晴美さんが、同一人物間で書簡を往復させるという設定の面白さを熱く解説する光浦さん。「お上品な言葉で下ネタ満載」という感想が、多くの視聴者の興味を引いたのか、問い合わせが翌日から殺到しました。


奇跡体験!アンビリバボー(フジテレビ系列)
 事件や事故を再現しながら解説するドキュメンタリー番組。ビートたけしさんがナビゲーターを務めているので、観たことがある方も多いのでは。
 1915年北海道で起きた史上最悪の獣害「三毛別羆事件」を「アンビリバボー」が取り上げた回があります。たまたま観ていたのですが、開拓民7名がヒグマに殺される経過を追う、ショッキングな再現ドラマにびっくりしました。事実だと言われても、とうてい現実のこととは思えないほどでした。
 この再現ドラマに衝撃を受けた多くの視聴者が、さらに事件の真相を知ろうとして、元ネタの『羆嵐』をお買い求めいただいたようです。実際、テレビで放送することが不可能な、さらに残酷な現実が、『羆嵐』では描写されています。


奇跡体験!アンビリバボー(フジテレビ系列)
 人を殺し、その死を金に換える“先生”と呼ばれる男を告発する証言。しかしその告発者は拘置所に収監中の殺人犯だった。逡巡しながらも取材を続けた雑誌記者は告発が本物だと確信し、その追及はやがて警察をも動かした。
 同じく「アンビリバボー」の再現ドラマで、この事件を初めて知った人も多かったのではないでしょうか。信じられない事件を、活字で再確認したい、さらに詳細に知りたいというところから、元ネタである『凶悪―ある死刑囚の告発―』を多くの皆さまにお買い上げいただいたようです。


 こうして並べてみると、「きっかけ」は硬軟さまざまですが、テレビの影響力は相変わらず大きいと思います。テレビ関係者の皆さま、良書、傑作揃いの新潮文庫を番組制作にご活用ください。よろしくお願いいたします!

(K・Y)

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2012年06月11日   今月の1冊
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