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今年の三島賞と山本賞

 Yonda?Mail購読者の皆さん、こんにちは。

 去る5月15日、三島由紀夫賞と山本周五郎賞の受賞作品が決まりました。


 三島賞受賞作は、青木淳悟さんの『私のいない高校』(講談社刊)、山本賞受賞作は、原田マハさんの『楽園のカンヴァス』(小社刊)です。

 書評家の豊崎由美さんに「これまで読んだ中で、もっとも不可解な小説」と言わしめた『私のいない高校』。まさしくタイトル通り、作中のどこにも「私」はいません。それはただ主人公がいないというだけでなく、小説の中で物語を語る「私」がどこにもいないのです。


『私のいない高校』が描写しているのは、カナダ人の女子高生が、神奈川の高校へ留学してきて起きた「さざなみ」です。事件らしき事件も起きないページをめくるうち、ふと気づきました。普通の小説なら「私」が占めているはずの場所に、読み手である自分がはまり込んでいることに。

 感情移入の対象としての「私」がいないので、自分が透明人間となって教室での授業に臨んでいたり、修学旅行に随行していたりするのです。個人的には不思議な小説体験をしたと思いました。滅多なことでは味わえない、非日常的な小説を読みたいとおっしゃる方に、ぜひお勧めいたします。


 山本賞を受賞した原田さんは森ビル森美術館設立室やニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤務した後、フリーでキュレーターもなさっているとのこと。『楽園のカンヴァス』はその広汎な知識を生かし、絵画と美術界の裏の裏まで描きつくした極上の絵画ミステリーです。

 画家アンリ・ルソーの畢生の大作「夢」とほぼ同じ構図、同じタッチの一枚の絵。闇から姿を現したその絵を巡り、対峙したMoMAのキュレーターと日本人女性研究家が、17年の歳月を経て見出した楽園とは。

 もちろん扱う題材は違いますが、専門性の高い情報と緊張感溢れる謎解きから、『ダ・ヴィンチ・コード』を彷彿とさせました。ぜひ映像化して欲しいと思った傑作小説です。

(K・Y)

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2012年06月01日   お知らせ
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