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「考えない人」を考える


 Yonda?Mail購読者の皆さん、こんにちは。
 今朝、駅のホームでOLらしき二人組のこんな会話を耳にしました。

A「ああ、アタシ変なこと言ってるね。ごめんなさい。まだ寝ぼけてるみたい」
B「全然大丈夫。朝は寝ぼけてないとつらいよ」
A「そうよねえ」

 そのときは軽く聞き流したのですが、電車に乗ると何だかもやもやしてきました。「朝は寝ぼけてないとつらいよ」???

 今月発売の新潮文庫『考えない人』(宮沢章夫)は、そんな「考えない人」たちの言動を巡るエッセイ集です。理屈を素通りして溢れ出す「考えない人」の言動。宮沢さんは「考えない人」をただあげつらうのではなく、「考えない」の肯定的側面を探ろうとしています。たとえば入院していたとき、お見舞いにウクレレを持って来た人を宮沢さんは…


このすごさに私は感心した。意味がわからないではないか。だからといって、笑わす意図などまったくない。「なに、これ?」と、見舞ってくれた友人に質問すると、友人はごくあたりまえのことを言うように「病室で弾いてもらおうと思って」と言ったのだ。善意である。


 あるいは不意に「マル君をもらってくる」と告げた知人。まだ雄か雌かも分からない猫なのに、いきなり「マル君」と名付けるとは! 我々の日常や常識にヒビを入れるこうした「考えない人」たちを、宮沢さんは次のように看破しています。

「考えない者」は、考えられないから考えないのではない。きっぱりとした態度で考えないのだ。

 
 なるほど。「考えない人」とただの「ばかもの」の違いはそこにあるのですね。とすると、「朝は寝ぼけてないとつらいよ」と言ったB嬢は「考えない人」だったのか「ばかもの」だったのか。

 いや、待てよ。そんなこと言ったB嬢自身が、寝ぼけていた可能性もあるな。

(K・Y)

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2012年08月01日   お知らせ
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