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未体験の航海にあなたをご招待。もっともハードな組織小説にして、トップとして活躍する女性を描く最新お仕事小説!

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 海上自衛隊の花形である護衛艦。最前線で国の安全を守り、災害救助にも活躍しています。では、その艦(ふね)をどのような人々が動かしているのか。内実を知る方は少ないでしょう。我々にはブラックボックスにさえ感じられる護衛艦ですが、本シリーズではそこを職場とするさまざまな人々を丁寧に描いてゆきます。
 さらに近年は各自衛隊において女性の進出が目覚ましく、海上自衛隊でもさまざまな部署で女性たちが重要な役割を担っています。少数ながら艦長を務める幹部もおり、本書の主人公もそのひとり。
 早乙女碧2等海佐は、国立大学教育学部を卒業後、江田島の幹部候補生学校で学び、卒業後は幹部としてのキャリアを積んでゆきます。かつて練習艦艦長を務め、操船のセンスにも恵まれた彼女は海上での勤務を熱望し続けるものの、市ヶ谷の海上幕僚監部で人事調整という複雑なデスクワークに頭を悩ませる日々を送っていました。「海に戻るチャンスはもうないのか......」。諦めかけていたところに、あおぎり艦長への異動を打診され、喜び勇んで、懐かしい呉の地を踏みしめます。
 あおぎりは、全長137メートル、ヘリコプターを搭載する本格的な護衛艦で、早乙女は、約170名の部下の命を預かるという重責を担うことに。いよいよ待ち望んでいた初出港の日。でも、その直前、部下1名が姿を消していたことを知ってしまうのです。本来であれば、捜索を部下に任せ、報告を艦内でじりじりと待つことになるのですが、彼女はある決断をします。護衛艦はどのような世界なのか。艦をひとつに束ねる艦長の職責とは――。この1冊が、ブラックボックスを照らします。
 第2巻『試練―護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧―』では、広報活動の一環として、100名の民間人を乗せ、スケジュールを順調にこなしつつ瀬戸内海を航行するあおぎりに、海自練習機からの遭難信号が飛びこんできます。時を同じくして、乗船中の民間人男性が倒れ、即時移送が求められる疾患と判明。2つの事件に伴う多重の問題に、新任艦長・早乙女碧はどう立ち向かうのか。指揮官の苦悩と決断。さまざまな部署のプロフェッショナルたちが危機を打開してゆく様子。サスペンス小説の醍醐味が味わえる長編となっています。
 著者の時武里帆さんは、主人公・早乙女碧と同様、防衛大学校ではなく、一般大学から海上自衛隊へと飛び込んだという経歴の持ち主。ご自身の経験に本作のための取材を重ねて、日本初の女性艦長シリーズがここに船出をしました。
 警察小説や企業小説など組織を描く小説を愛する読者にも、男性社会で奮闘する女性を描くお仕事小説に共感する読者にも、自信を持ってオススメできる2作です。


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2022年04月15日   今月の1冊
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