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あの名作『家守綺譚』の姉妹編が新潮文庫に登場みずみずしくも痛切な青春メモワール『村田エフェンディ滞土録』


 亡き友人、高堂の家を預かる作家の綿貫征四郎。その家の周りにおこる不思議な出来事を静かにつづった梨木香歩さんの名作『家守綺譚』は、その続編である『冬虫夏草』とともに、数々のファンを生み出したベストセラーとなりました。
 この『家守綺譚』に姉妹編の作品が存在するのをご存じですか? それが今回、新潮文庫版が刊行された『村田エフェンディ滞土録』です。
 主人公は、綿貫の友人である村田。彼は考古学の勉強のため、19世紀末のトルコ、スタンブールに留学中です(エフェンディとは学問を修めた人間に対する敬称)。イギリス人のディクソン夫人が営む下宿に、同じく留学生であるドイツ人のオットー、ギリシア人のディミィトリスとともに暮らし、友情を深めていきます。村田の身の回りに起きるできごとは、『家守綺譚』同様不思議がいっぱい。異国の人々や人ならぬものとの交流しながら、学びを続ける村田でしたが、突如日本からの帰国命令が下ります。やがて、日本で暮らす村田に届いた報せとは――。

 物語の舞台は19世紀末~20世紀初頭。村田が暮らしたトルコもまた、不安定な政情にありました。やがて第一次世界大戦が勃発し、村田の友人たちも国同士の争いごとに巻き込まれていくことになります。
 美しく豊かな青春の日々と、国と国とに引き裂かれる友情。誰もが胸を打たれずにいられない結末には、号泣必至です。

 そして今回の新潮文庫版刊行にあたっては、著者によるあとがき「あの頃のこと」が付け加わりました。このあとがきを読むと、『村田エフェンディ滞土録』はいかにして書かれることになったのか、著者はどうして当時のスタンブールをこれほどリアルに描くことができたのかがわかり、ファンは必読の内容となっております。

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2023年02月15日   今月の1冊
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