古井由吉 遺稿
岸 政彦「リリアン」(230枚)
新潮 2020年5月号
(毎月7日発行)
発売日 | 2020/04/07 |
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JANコード | 4910049010501 |
定価 | 特別定価1,100円(税込) |
◆遺稿/古井由吉
大水の夜、台風の眼に入った街を、私は生涯の静まりのように眺めていた。未完の絶筆。
【追悼・古井由吉】
●三篇の傑作について/蓮實重彥
――古井由吉をみだりに追悼せずにおくために
●生死不明/島田雅彦
●枯木の花の林/佐伯一麦
●「踏まえるべきもの」の絶えた時代に/平野啓一郎
●ここにあるもの/又吉直樹
◆リリアン[二三〇枚]/岸 政彦
連れてってくれ。暗い海の底に。大阪の夜に切なく響く、男女の語らいとジャムセッション。
◆FICTION 04 変転する北極星/山下澄人
◆詩人ちゃん・キル・ミー(三)/最果タヒ
◆行くと絶対に呪われる場所/藤野可織
◆曼陀羅華X 2004【新連載第三回】/古川日出男
◆アガディール/松浦寿輝
◆プリニウス(六十八)/ヤマザキマリ+とり・みき
■■ 連載小説 ■■
◆全然(九)/滝口悠生
◆漂流(十二)/町田 康
◆チェロ湖(十四)/いしいしんじ
◆ヒロヒト(十八)/高橋源一郎
◆ビッグ・スヌーズ(二十六)/矢作俊彦
◆荒れ野にて(五十)/重松 清
◆生者と死者のあわい/黒川 創+やなぎみわ
――『暗い林を抜けて』をめぐって
創作は死者との合作だ。そうやって死者と自分は共に生きる。小説家と美術家の魂の対話。
◆失われているものを求めて/福嶋亮大
――村上龍の『MISSING』
◆石牟礼道子と渡辺京二【連載完結】/米本浩二
不器用な魂の邂逅(5)
◆令和元年のテロリズム/磯部 涼
第四回 元農水省事務次官裁判から考える
【リレーコラム】Passage――街の気分と思考(10)
◆リストバンド/西 加奈子
◆私が知っていること/水原希子
◆OH MY GOD/エリイ(Chim↑Pom)
第八回・塵の中に打ち倒す
◆保田與重郎の文学(十九)/前田英樹
◆水戸学の世界地図(四十九)/片山杜秀
◆小林秀雄(六十三)/大澤信亮
◆地上に星座をつくる/石川直樹
第八十四回・浸食される日常
◆見えない音、聴こえない絵(一八四)/大竹伸朗
■■ 本 ■■
◆乗代雄介『最高の任務』/倉本さおり
◆松浦寿輝『月岡草飛の謎』/諏訪哲史
◆古川真人『背高泡立草』/田中和生
■■ 新潮 ■■
◆朝、起きられない。/崔 実
◆18歳未満お断りの映画がベストワンでいいのでしょうか/荒井晴彦
◆放卵希望/水沢なお
◆日記屋をはじめる/内沼晋太郎
◆ゾンビの想像力/樋口泰人
第53回《新潮新人賞》応募規定
【選考委員】大澤信亮/小山田浩子/鴻巣友季子/田中慎弥/又吉直樹
この号の誌面
立ち読み
編集長から
古井由吉氏の遺作
二〇二〇年二月十八日、古井由吉氏が逝去された。享年八十二。昨年以来、小誌に短篇を連続して発表していた途中のことだった。
このたび、古井氏ができうる限り最後まで取り組んでいた短篇(無題)を掲載する。未完ながら清書されていたその原稿は、昨年九月中旬から十月下旬にかけて、入退院の前後の日々を描く。病室のベッドの上、浅い眠りの中で「不思議な文字のつながり」を幻視することがあった。上陸した台風が上空を通過した夜、暗い病室の窓から外を眺めながら、古井氏は地表のかすかな光と周囲全体の静まりを全身で受け入れ、「ようやく、時間の停滞に消耗させられずに折り合っている自身を見た」――。
この天の動向と人の命運の共振が、稀有な文学者の辿り着いた境地=楽天だとは断言すまい。この遺作は「未完」のまま私たち読者の想像力に向けて無限に開かれているのだから。
氏の豊穣極まる文学世界に心からの感謝を捧げたい。
新潮編集長 矢野 優
バックナンバー
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雑誌から生まれた本
新潮とは?
文学の最前線はここにある!
人間の想像力を革新し続ける月刊誌。
■「新潮」とはどのような雑誌?
「新潮」は日露戦争の年(1904年)に創刊された、百歳を超える文芸誌です。現役の商業文芸誌としては世界一古いという説があります(ただし第二次大戦中は紙不足のため数号、関東大震災のときは1号だけ休刊)。その歴史の一端は小誌サイト内にある〈表紙と目次で見る「新潮」110年〉でご覧ください。
■革新し続ける文学の遺伝子
もちろん古いことと古臭いことはまったく別です。百余年にわたり、たえず革新を続けてきたことこそが「新潮」の伝統であり、その遺伝子は現編集部にも確実に引き継がれています。ケータイ小説やブログ、あるいは電子配信、電子読書端末まで、いまだかつてない〈環境変動〉がわたしたちの生に及びつつある今、時代精神を繊細に敏感に感じ取った小説家、批評家たちが毎月、原稿用紙にして計1000枚以上(単行本にして数冊分)の最新作を「新潮」を舞台に発信し続けています。
■日本語で表現されたあらゆる言葉=思考のために
デビュー間もない20代の新人からノーベル賞受賞作家までの最新作がひとつの誌面にひしめきあうのが「新潮」の誌面です。また、文芸の同時代の友人である音楽、映画、ダンス、建築、写真、絵画などの領域からも、トップクラスの書き手、アーティストが刺激的な原稿を毎号寄せています。文芸を中心にしっかりと据えながら、日本語で表現されたあらゆる言葉=思考の力を誌面に結集させたい――それが「新潮」という雑誌の願いです。