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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

財務官僚は悪人か

 このところ、ずっと疑問に思っていたことがありました。増税の問題についてです。その是非はさておいて、私の疑問は、次のようなものでした。
「財務省が総理大臣をも操れるくらいすごい人たちなら、どうしてもっと上手にマスコミや世論を操作しないのだろうか。こんなに悪玉扱いされていて、嫌にならないのだろうか」
 気の弱い私ならばぜったい、あたふた言い訳すると思うのに、財務省側の言い分は驚くほどに聞えてきません。
 その疑問を解消してくれたのが、6月新刊『財務省』。「ミスター円」の異名を取った元大蔵官僚、榊原英資さんが古巣でもある「省庁の中の省庁」について、徹底的に解説した一冊です。同書には、こうあります。
「財務省は悪役とされることが常です。普通の組織ならばイメージアップを図るところですが、財務省にはそんな気配は見られません。(略)それはなぜか。彼らは自分の職務の性質上、自分たちは悪役でいい、と割り切っているからです。もっと言えば、財務官僚たちの中には、『悪役と思われる方がカッコイイ』という美学というか、空気があります」
 この本には、財務省の歴史、組織系統から、どんな人がどんな暮しをしているか、どんな接待があったのか、大物次官とはどういう人かといったことまで書かれていて、これ一冊読めば、財務省のことが丸ごとわかるようになっています。
 ちなみに野田総理を操っているという評判で、もっぱら悪の親玉みたいな扱いになっている現在の事務次官は、一時期、著者の直属の部下だったそうです。

 他の新刊3点をご紹介します。
『オーディション社会 韓国』(佐藤大介・著)は、韓流ファンにも、「嫌韓流」の人にもお勧めのレポート。受験戦争が厳しく、就職率も低く、高齢者の自殺率が高い、超競争社会の厳しさが、実例とともに描かれています。「そんな厳しい国、嫌だなあ」と思うか、「こんなシビアなところから勝ち上がったからこそ、韓流スターは輝いているのか」と感心するか、受け止め方は様々かと思います。
『「新型うつ病」のデタラメ』(中嶋聡・著)は、現役の精神科医による勇気ある問題提起の書。「失恋して気分がダウンしたんで」という程度の理由で休職する人がいます。心の病で休職しているはずなのに、外で遊んでいる様子をブログにアップするという類の人もいます。職場の人たちは本音では「それって病気か?」と思っているけどいえない、この「心の病」について、専門家の立場から解説し、さらにその欺瞞性を鋭く切っています。
 世の中の世知辛さに嫌気が差した人にお勧めなのは、『「地球のからくり」に挑む』(大河内直彦・著)。同書によると、現代人は、ひどいエネルギー中毒にかかっていて、自分が摂取する30倍のカロリーを消費しています。つまり、現代人はそれぞれ奴隷30人を雇っているようなものだそうです。では、そのエネルギーを人類はどう獲得してきたのか。宇宙から飛来した石油の源とは? 毒ガスが生んだ新エネルギーとは? そもそも地球の定員は何人か? 地球物理学者である著者が、最新の科学的知見をふんだんに盛り込んだ、スリリングで壮大な読み物です。

 財務省とは何か? 韓国はいまどうなっているか? 新型うつ病ってホントに病気か? そして地球はどこまでわかったのか?
 さまざまな疑問に答える4冊の新刊を是非手に取ってみてください。

2012/06