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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

いろいろうとい

 新潮新書は教養新書のジャンルに含まれることになっており、その教養新書が扱うジャンルの中で柱の一つが、歴史物です。ところが恥ずかしいことに、私は編集長でありながら、歴史方面にうといのです。もちろん学校で一応勉強をしたのですが、流れや固有名詞が頭に入っていません。しかもどんどん忘れていっています。
 日常会話で「クリミア戦争みたいだね」とか「カエサルはこう言ったよね」みたいなことを言う人を見ると素直に凄いなあと思います。いまこう書いていても、クリミア戦争が何か、カエサルがどういう人かはよくわかっていません。「墾田永年私財法って口に出すと気持ちいい」と聞いて、なるほどそうだと思ったものの、しかしそれっていつの何だったかも思い出せなくなってきました。
 そういう者に喝!と気合いを入れてくれる本が5月に2冊出ます。
 一冊目は『黄金の日本史』(加藤廣・著)。超人気歴史小説作家の加藤さんが、「歴史の面白さを知らない人が多すぎる」という思いから書き下ろしてくださった、目からウロコがボロボロ落ちるような日本通史です。歴史を動かしてきた原動力は、「金(キン)」だった!という仮説をもとに、日本史を読み解くという試みで、驚きと興奮の連続。古代の人も、源氏も平氏も戦国武将もマッカーサーも、みんな金に翻弄されてきたことがわかります。
 とても読みやすいので、歴史好きはもちろん苦手意識のある方にこそお勧めです。
 もう一冊の歴史の本は『ハーバード白熱日本史教室』(北川智子・著)。著者は二十代でハーバード大学で日本史の講座を持つことになった才媛。日本史は学生たちにとっては、必修科目でもなければ興味の対象でもありませんでした。その学生たちに様々な画期的な教え方を駆使することで、日本史の面白さを伝えることに成功し、講座は大学でトップクラスの人気を誇るようになるのです。歴史の面白さ以外に、こんな日本人女性がいたのか、という驚き、感動も味わえる一冊です。

 他の新刊2冊もご紹介します。
『自衛する老後―介護崩壊を防げるか―』(河内孝・著)は、介護、医療の最前線を追ったルポ。この話題はとかく絶望的になりがちで、実際にこの本の中でも重い話題が多く含まれていますが、一方で著者は現場からかすかな希望も見出していきます。これからの生きかたを考えるには、まさに「自衛」の精神が必要なことがわかります。
『55歳からのフルマラソン』(江上剛・著)は、企業小説の第一人者がマラソンに挑戦したランニング・エッセイ。江上さんは元銀行員で、作家になった後にも日本振興銀行の経営破たんに際して、代表執行役社長に就任し、混乱の収拾に尽くしました。当時、精神的、肉体的に追い詰められた著者を救ったのが、ランニングであり、マラソンでした。疲れた中年男性が、ふとしたきっかけで始めた運動から再生していく様には、映画「Shall We ダンス?」を見たときのような感動をおぼえます。
 そういえば私は運動にもうといのですが、この本を読んだら「少し走ってみようか」という気になりました。

2012/05