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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

理想と現実のあいだで

 日本勢が史上最多のメダルを獲得した北京冬季オリンピックが終わった途端、世界のニュースはきな臭いものに一変。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、核兵器の使用をチラつかせるにいたりました。戦後77年目を迎え、まさかとは思いたいところですが、追い詰められた専制者が暴発する可能性は、常にゼロではありません。
 3月新刊のイチ推し、『核兵器について、本音で話そう』(太田昌克兼原信克高見澤將林番匠幸一郎・著)では、ロシアや中国、北朝鮮など、総計数千発もの核兵器が日本を射程内にとらえる現実にいったいどう向き合うのか、外交、軍事、メディアの論者4人が「本音」で話し合います。核廃絶か核抑止か、というイデオロギー的な二項対立を超えた白熱した議論が、今こそリアルに響きます。
首相官邸の2800日』(長谷川榮一・著)では、第一次・第二次安倍政権で計8年余りにわたって内閣広報官と総理補佐官を務めた著者が、世論の賛否も浮き沈みもありながら憲政史上最長を記録した官邸の日々を綴ります。核廃絶を掲げたオバマ、独断専横のトランプの両アメリカ大統領、さらにはプーチンに習近平主席など名だたる大国首脳との外交、あるいはゴーン事件のような他国とのトラブルのウラで官邸チームはどう動いたか――「一強政権」の内側を明かす貴重な政治ドキュメントです。
野村萬斎―なぜ彼は一人勝ちなのか―』(中村雅之・著)は、能狂言をはじめ伝統芸能の枠にとらわれず、演劇や映像、演出の世界まで幅広い活躍を続け、「一人勝ち」ともいわれる萬斎の全貌をひもときます。演じることに対する絶え間ない努力と創意工夫から、野村家のファミリーヒストリーまで、数百年におよぶ能楽の歴史の中から、必然か偶然か、期せずしてこの「天才」が生まれたことがビビッドに伝わってきます。
知的に見える男、バカっぽく見える男』(テート小畠利子・著)は意外にして簡単、役に立つファッション指南書。男がスーツを着た時、なぜこれほど「見た目」の印象――メタボで太っている/恰幅よく堂々としている、やせていて頼りない/シャープで知的――がちがうのか、理由と解決方法をイギリス在住の女性イメージコンサルタントがやさしく教えます。気づかなかった「骨格」の重要さから、服選びと組み合わせのアドバイスまで、世にあふれる"ユニクロおじさん"たちにぴったりの実用書です。
2022/03