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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

それぞれに見える「国柄」

 4か月目に突入したウクライナ戦争も気にかかりますが、足元では、今年に入って北朝鮮による弾道ミサイル発射がかつてないハイペースで続いています。同国での新型コロナの爆発的感染拡大が報じられる中、不測の事態への懸念が内外ともに高まっています。
 6月新刊『韓国民主政治の自壊』(鈴置高史・著)は、朝鮮半島をはじめ東アジア情勢の「先読みのプロ」による最新作。4年前に刊行された『米韓同盟消滅』は、前政権のもとで不協和音の高まる米韓同盟の行方を鋭く分析。続く本書では、なぜ政権交代のたびに前大統領が投獄されるのか、なぜ国同士の約束を簡単に反故にするのか、「西側の常識」では首をかしげざるを得ない、かの国の行動原理を解き明かします。日韓関係冷え込みが続く中、ジャーナリスティックかつ歴史を俯瞰した中長期的な分析に説得力があります。
桑田佳祐論』(スージー鈴木・著)は、前著『サザンオールターズ 1978-1985』で好評を博した著者による続編。サザンオールスターズとソロ名義の楽曲、とりわけその歌詞を精密にひもとくことで、1970年代から現代までの社会やライフスタイル、人々の考え方の変化を浮き彫りにする音楽批評です。オリジナルかつしばしば変テコなフレーズの数々に込められた、鋭く、深いセンスに今さらながら驚かされます。
よくも言ってくれたよな』(中川淳一郎・著)は、コロナ禍によってアメリカ移住の予定が潰え、移住先に選んだ佐賀・唐津で綴ったネットニュース編集者の怒りとタメ息のドキュメント。この2年間、著者はマスク着用とワクチン接種の「義務化」を批判しては、ネット上で激しいバッシングにさらされ続けました。わが社会の同調圧力は今回のパンデミックで明らかになった国民性ですが、あらためてその強さを思い知らされます。
 来月に参院選を控え、また政治の季節がやってきます。予想以上に高い支持率が続く岸田政権のもと、次期総裁という期待値こそしぼんでいますが、『異論正論』(石破茂・著)は、いま最も分かりやすく、まっとうな政策論集と言えるでしょう。コロナ対応からウクライナ戦争、経済対策、得意の安全保障まで、政界きっての政策通と呼ばれる著者だけあって、理念と論理に基づいた政策論はあいかわらず冴えています。
2022/06