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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

リアルとバーチャルのあいだで

 例年にない早々の酷暑にインフレ、いつ終わるともしれない戦争のニュース、ぐずつくコロナにいまだ外せないマスク......ストレスのタネは日々尽きることがありません。
 かつてなく便利で豊かな社会に暮らしながら、現代人は未曾有のストレスまみれで、うつや不安障害、PTSDなど「史上最悪のメンタル」にあるのではないか――そう分析するのは、7月新刊のイチ押し『ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン・著、久山葉子・訳)です。
 誰もが不安な、スマホ依存が脳に与える影響を明らかにした『スマホ脳』、その影響から逃れる方法を説いた『最強脳―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業―』に続く第3弾では、最新の知見をもとに、人類史上、最古にして最大のテーマ「ストレス」に挑みました。良くも悪くも、なくては済まされないストレスの数々と私たちヒトの脳はどのように関わっているのか、いかにうまく付き合えばいいのかを教えてくれます。
 依存と言えば、最近にわかに一般社会へと広がり始めているのが違法薬物の数々です。『スマホで薬物を買う子どもたち』(瀬戸晴海・著)は、2018年までマトリ(厚労省麻薬取締部)トップをつとめた著者による第二作。前著では、自身のキャリアと捜査の現場を描いて大反響でした。本作では、近年スマホとSNSの浸透によって激変した若者たちの薬物売買の実態を明かします。家族仲もよくて学業優秀、そんな「問題のない子どもたち」が日常的に晒される薬物リスクに強く警鐘を鳴らします。
 先進的ネット社会の先行きをリアルに突きつけるのは、『韓国 超ネット社会の闇』(金敬哲・著)。IT政策が日本よりずっと早く、かつスピーディーに実現されてきた国家の現在地を詳細にレポートします。韓流文化の世界的進出、一時もてはやされたK防疫などは先進的なデジタル化に負うところ大でしたが、あまりに社会に浸透しすぎたネットやSNSが、大統領選や経済政策からスポーツ芸能にいたるまで、リアル社会を凌駕する影響力を持ち始めています。人生の4割の時間をネットに費やす人々が陥っているディストピア、その様は近い未来の日本でもありそうです。
 ビジネス、家庭、技術、ありとあらゆる環境がアナログだった時代。スターを生みだす原動力は、夢と情熱、努力と運命でした。『松田聖子の誕生』(若松宗雄・著)は、伝説のプロデューサーが初めて明かす秘話の数々。1978年、一本のカセットテープから流れる歌声から全てが始まります。芸能界入りに反対する父親、難航するプロダクション探しとデビューへの道筋など、相次ぐ難題を聖子と二人三脚で乗り越えていきました。オーディションに夢を託した「他の誰にも似ていない」16歳の少女、その存在がやがて社会現象になるまで、稀代のスター「松田聖子」のつよさの原点を描くドキュメントです。
2022/07