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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

寄せる波、引く波の渦中で

 猛暑が続く中、7度目のコロナの波はこれまでにない高さになっています。社内でも、待機や陽性の報告は珍しいことではなくなってきました。政府は感染症法上の分類をインフルエンザ並みに引き下げることや、感染の全数把握を見直そうとする検討を進めていますが、あらゆる社会・経済分野で業務に支障が出ている状況下、数値はともかく、軽症が大半であることも考えれば無理もないことのように思います。
 8月新刊『人間の業』(百田尚樹・著)は、「人のいない野外でもつねにマスクをつけろってどうなの」「死因のトップはコロナではない」「オンラインでなんでも済まそうとするのも困る」――などなど、過剰なマスク信奉とコロナ恐怖にかねて警鐘を鳴らしてきた作家によるシリーズ最新作です。全国津々浦々で日々起きる、思わず笑ってしまうような話や呆れてしまう話から、ムカつく政治家にきれいごとばかりのメディアまで、鮮やかな「百田節」で斬り捨てていきます。ページをめくる手が止まらない、うっとうしい暑さを吹きとばす一冊です。
老後の心配はおやめなさい―親と自分の「生活戦略」―』(荻原博子・著)は、諸説紛々ありすぎる老後の生活設計について、基本的な考え方とすぐできる対策の数々を示します。子どもの手が離れる50代、迫る定年と増えない預貯金、80代の老親の介護と看取り問題が始まり、それが終わると今度は自分の始末......考えるだけで気がふさぎそうな「老後」ですが、やるべきことを一つ一つこなしていけば人生は何とかなる、そう著者は教えてくれます。
人生はそれでも続く』(読売新聞社会部「あれから」取材班・著)は、日々のニュース取材に追われる新聞社にはちょっと珍しい企画。飛び級で大学に入った天才少年が今はトレーラー運転手、大学を卒業した赤ちゃんポスト第一号の男児、自分を追い込みすぎて拒食症と盗癖に苦しんだ元マラソン女王、バックドロップでスター選手を絶命させてしまったプロレスラーなど、かつて騒動の渦中にあった22人の「あの人」たちが今どこでどうしているのか、読売社会部が総力を挙げて掘り起こした逸話の数々は、新聞連載中からネット上でも大反響でした。
秀吉を討て―薩摩・明・家康の密約―』(松尾千歳・著)は、島津家が経営する尚古集成館の館長が、最新の研究成果から戦国史の大きな謎を解き明かします。天下統一後、朝鮮半島さらには大陸にまで触手を伸ばそうとした秀吉。その軍事的野望は超大国・明にとっても座視できないものであり、海外派兵を命じられる諸大名の不平不満もまた小さくありませんでした。そしてそこに絡むのが「次」の座を狙う智将・徳川家康――三者の同床異夢は、やがて一つの策謀へとつながっていきます。事実は小説より奇なり、そんな歴史スクープです。
2022/08