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働き方見直しプロジェクトをきっかけに、
職場の意識が変わってきました。
コクヨ株式会社 経営管理本部 人事総務部 人事統括ユニット リーダー 赤木由紀さん
もっと多様で柔軟な働き方を実現するために、国を挙げて取り組みが進む「働き方改革」。そこで、企業の重要なミッションとなっているのが「ダイバーシティ(多様性)推進」です。文房具やオフィス家具、事務機器を製造・販売するコクヨ株式会社は日本企業の中でも先陣を切ってダイバーシティの積極的な取り組みを行っています。今回は、コクヨ人事統括ユニットリーダーで、コクヨグループのダイバーシティ推進担当の赤木由紀さんに、ご自身の働き方とコクヨの働き方見直しプロジェクトについてお話を伺いました。
――最初に、赤木さんのお仕事の内容を教えてください。
現在私は人事総務部で主に人事の仕事をしています。直近ではグローバル人事を担当し、弊社の海外拠点と連携しながら、人事組織的な面の支援をしています。プラスアルファで、働き方を見直していくプロジェクトを立ち上げて、そのメンバーの一員でもあります。コクヨには「ダイバーシティ推進委員会」が発足した2007年に入社し、今年で11年目になります。
――具体的にどのように働き方を見直しているのでしょうか?
いろいろと種類はあるのですが、長時間労働を是正していくという取り組みもあれば、今の働き方をより効率的にするために人事としてどのようなことができるのかを考えて、きっかけ作りをすることもあります。
――前職でも人事にかかわるお仕事をしていたのですか?
前職は某大手通信会社にいましたが、いろいろなことにチャレンジさせてもらえる会社だったので、人事だけでなくさまざまな仕事を経験しました。最初は海外ベンチャーの合弁で、アメリカから日本にカスタマーサポート体制を持ってくるという仕事をしていました。そのあと異動があり、パラリーガルといって、営業マンと一緒に契約交渉の内容を詰めていって、実際に交渉の現場に立ち会う仕事をしていたこともあります。今までいろいろな仕事をしてきたけれど、私は基本的に人が好きなので、人事こそ自分の中で一番しっくりくる仕事だと感じました。誰かの役に立ちたいという思いも人事であれば適いやすいことにも気がつきました。もう少し人事という仕事を突き詰めたいと思ったときに、じっくり人事と向かい合えるコクヨと縁があり転職することになったのです。
――前職では現在のように定時退社ができる環境でしたか?
自分でやりたいといったら本当に何でもチャレンジさせてくれる会社だったのですが、業務量も同時に増えていった記憶があります。短納期にいろいろなことをしないといけなくて、終わるのが深夜になってしまうことも多かったです。
――前職と今とでは、生活はどのように変わったと感じますか?
コクヨに入社して、人間らしい生活というのはこういうことなんだなと気づきました。毎日ペースの速いフルマラソンのように走り続ける仕事の仕方がだんだん辛くなってきて、自分の体が持たないというのはずっと感じていました。やはり効率的に働くためにも体を休める、メリハリある働き方を実現することは大事です。
――次に平均的な1日の過ごし方を教えてください。
コクヨはフレックスタイム制を採用していて、私は他の社員より少し早めの8時15分頃出社しています。朝の時間は人が少なくて静かなので、集中してやりたい業務を入れます。11時半頃から同僚と一緒にランチをして、午後には人と会ったり、打合せなどの仕事が多く入ります。それ以外のときは、デスクで企画書や資料を作ることが多いですね。退社するのは18時半か19時頃です。
――コクヨのフレックスタイムはどのような制度ですか?
月間で就業時間が決まっているので、それぞれの社員が弾力的に働いています。必ず出勤しないといけないのですが、残業した翌朝は、上司とコミュニケーションを取って若干遅めに出社したりと調整することも可能です。当然深夜の労働を極力控えるというのもルールのひとつです。
――仕事が終わったら何をして過ごしていますか?
家に帰って家事などをします。仕事では集中して働くことが多いので、プライベートの時間はリラックスして、音楽を聴きながら料理を作ったりしています。時々、ダイバーシティ関係の会合や異業種イベントに出ることもあります。
――定時退社することで仕事の効率は上がっていると感じますか?
早めに帰れると夜はちゃんと家でリラックスができます。オフの時間が以前より長いので、余力があれば本を読んだり、勉強してみる気持ちになります。それを仕事に活かせば、いい意味で還元されていますよね。
――仕事を早く終わらせるためのコツや工夫はありますか?
携帯からやるべきことを打ち込んで、朝出社したときには何をしなければいけないのか、すでにTo Doができている状態にしています。ひとつひとつの仕事がどれくらい時間がかかるのか考えて、締め切りの時間を作り、1日でできる仕事量をイメージしながら臨んでいます。
――仕事がどうしても終わらないときはどうしていますか?
そのときは割り切って最後までやります。私の場合は、中途採用のサポートもしていて、どうしても面接の時間が遅くなるので、定時で終わらないこともあります。
――『わたし、定時で帰ります。』のなかで、主人公が「定時退社は勇気のしるし」だと言うシーンがあるのですが、赤木さんにとって定時退社とは何だと思いますか?
定時退社は「オンオフの切り替え」です。自分自身の引出しを増やすきっかけにもなりますよね。自分がより自分らしくいるためのものとも言えると思います。
――そのように思う理由はありますか?
前職は長時間労働だったので、優秀な女性社員のなかには結婚が決まると辞めてしまう選択をする人が多くいました。それが私にとってはすごく残念で悔しくて。次第に私も仕事だけの人生でいいのだろうかと疑問を持つようになりました。私は仕事とライフ両方選びたいけれど、もしかしたらこの会社はできないのではと気づいてしまったんです。ちょうどその頃、コクヨは女性の仕事とライフの両立を応援しますというプロジェクトを立ち上げたばかりで、そこにすごく共感して入社したという経緯があります。
――赤木さんが入社した当時のコクヨの女性の働き方はどういうものでしたか?
仕事とライフを両立する女性はまだまだ少ない状況でした。当時は女性の管理職比率も少なかったので、女性の活躍を応援するプロジェクトを立ち上げようとしていたのだと思います。ただ、私がプロジェクトに参加して気づいたのは、女性だけでなく男性の働き方にもメスを入れた方が、結果的には女性の働き方の改善につながるということでした。そこで女性活躍ではなく、全社員を対象としたダイバーシティを推進するため働き方にフォーカスをあてることになりました。
――働き方見直しプロジェクトを実施されて、一番大きな変化はどこでしたか。
直近の話でいうと、昨年希望する部門に対して働き方のトライアルを実施してみました。これは2016年に、グーグルが行うWomenwillというテクノロジーによる女性が直面する課題解決を目的としたプロジェクトに賛同し、「Work Shorter」という退社時間を決めて帰る取り組みに他の賛同企業とともに参画したことがきっかけです。私たちが具体的に行ったのは、1週間の予定をグーグルカレンダーに事前に入力して、週1回は必ず早く帰る日を決めてもらいました。1日の予定を事前に入れることで、上司は部下が何をしているのかカレンダーを見ればわかります。1日の実績は入れる必要がないのですが、出勤と退勤を入れ、何時に帰るのか指定することはルールとしました。予定した退勤時間を過ぎてしまったときは、その理由も記載します。それは自分だけでなく、上司も就業時間をオーバーしてしまう傾向がわかるからです。これによってコミュニケーションの機会も増え、就業時間には限りがあるという意識が出てきたという声を多く聞きました。
――プライベートの予定も記載するのがユニークですね。
任意で何をするかは書かなくてもいいのですが、「18時に予定があるので帰ります」とカレンダーで宣言されていたら、17時半からの打合せは入れづらいですよね。ほかの人のスケジュールも配慮しながら、1週間の計画を立てていくことで、自分以外の人の働き方を知るいい機会にもなりました。
――これから社内で取り組みたいことはありますか?
ひとつひとつの取り組みを大切に、社員の声を聞きながら見直し、少しずつ裾野を広げていきたいと思っています。私たちは社員ひとりひとりが自分の働き方を考えていくようなボトムアップ型の取り組みをやっていきたいと考えています。どうしたら生産性を高くして働けるのかを考えるきっかけ作りができたらいいですね。働き方を変えるための施策は、かなり地道なもので共感してもらえる仲間作りが大切だと思います。
(取材・文 寺田愛)