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今月の1冊

板倉俊之蟻地獄
 お笑いコンビ「インパルス」結成から20年をむかえた板倉俊之さんが、 いま、作家として注目されています。芸人として、コントの作・演出を全て手掛けてきましたが、小説家としても実は10年目。 『蟻地獄』は、執筆に2000時間を費やした長編小説の文庫化です。

 さて、物語は──。二村孝次郎と大塚修平は小学校からの幼馴染み。19歳になった2人は、いつものように連れだってパチンコに興じていた。 この日は、更に一攫千金を目論み裏カジノへ乗り込み、ブラックジャックで大金を手にする。ところが、喜びも束の間、イカサマは見破られていたのだ。 5日後までに300万円を用意できなければ、人質の修平が殺される。孝次郎は金を作るため、高額で売れる「モノ」を求めて青木ケ原樹海へと向かうのだが......。

 ノワール小説かと思いきや、実は巧妙なサスペンス。二転三転、仕掛けがたっぷり詰まっています。生か死か──現代社会の闇を背景に、 「アリジゴク」に嵌まった若者の極限の姿がリアルに描き出されます。
 560ページ超を感じさせない圧倒的筆力で、読む者を欺くサスペンス巨編。技が光る『蟻地獄』の世界を思う存分お楽しみください!

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2018年02月15日   お知らせ / 今月の1冊

 安東能明が改めて注目される契機となったのが、『撃てない警官』。 日本推理作家協会賞に輝く「随監」を含むこの警察小説集で、94年デビューのベテラン作家は新たなステージに立ちました。 以降、安東氏は、柴崎警部シリーズをコンスタントに上梓し続けています。
 シリーズの魅力は、"地味に凄い"柴崎令司警部に加え、さまざまな個性の警察官たちが次々と加わってゆくところ。柴崎の上司である坂元真紀・綾瀬署署長は生真面目に正義を追い求め、解決のためなら先輩キャリアに直談判することも辞さない女性です。
 警察手帳紛失で躓いてしまった、盗犯第二係・高野朋美巡査は、持ち前の勘と粘り強さで次第に先輩刑事たちに認められる存在に――。
 そして今作では、上河内博人警部が刑事課長代理として着任しました。本庁捜査二課から来た彼は、軽口ばかり叩く、綾瀬署にこれまでいなかった陽性のキャラクターですが、実は、事件が起きるととことんのめり込む、根っからの刑事です。
 そんな彼に相棒として指名されたのが、内勤のプロである警務課長代理の柴崎。上河内はどうも、柴崎には捜査員としての才能があると考えているようなのです。
 新たな血を加え、さらにパワーアップした綾瀬署。本作で警察小説の醍醐味をたっぷり味わってください。

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2018年01月15日   お知らせ / 今月の1冊

 空也といえば、京都・六波羅蜜寺の空也上人像が有名ですが、実際の生涯はほとんど知られていません。歴史作家の梓澤要さんは、有名な親鸞や法然ではなく、なぜ謎めいた僧、空也を描いたのか。
「空也上人は、親鸞の250年以上も前に登場し、踊り念仏の一遍に大きな影響を与え、浄土教の先駆けと言われる人なのです。教団を作らず、生涯市井の民と生きた異色の人ですが、醍醐天皇の血筋をひくともいわれます。高僧が庶民のために祈るなど考えられない時代でした。生き方として非常にドラマティックなのですね」
 虐待を受け左肘に治らぬ傷を負った少年時代、東国への修行遍歴、平将門との出会い。のちに将門の獄門首に念仏を捧げる姿は、念仏を唱えれば大悪人でも救われるはずだと説いた空也の真骨頂です。
 なぜ、空也は辻に立ち念仏を唱え続けたのか。なぜ、すべてを捨てて、庶民のために生涯を捧げることができたのか。欲も恨みも、絶望さえも、すべて認めてすべて捨てよと説いた空也。まさに『捨ててこそ 空也』の面目躍如たる言葉がちりばめられた本書は、大きな感動を誘わずにはおかない歴史小説です。
 

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2017年12月15日   お知らせ / 今月の1冊

 わたしが妊娠しなかったら、この物語が書かれることはなかっただろう――
 このほど完結した全7部(全14巻)、総頁数およそ5000頁におよぶ大河小説「 クリフトン年代記」の書き出しの1行です。「わたし」というのは、イギリスの港町に暮らす貧しい労働者階級の女性です。 同じ境遇の男性との結婚を間近に控えた彼女が、ふとした気まぐれである男と一夜の関係を結んだために、波瀾万丈の物語の幕が開いてしまいます。
 相手の男性は海運会社の社長、すなわち富裕な上流階級の紳士でした。やがて彼女は結婚して、運命の子ハリー・クリフトンが誕生します。 成長したハリーはまるで何かに導かれたように、海運会社の社長の娘エマ・バリントンと出会い、恋に落ちてプロポーズします。 しかし、実は兄妹かもしれないという事実が二人を残酷に引き裂いてしまいます。そして、それでも愛を貫こうとする二人の強烈な意思が、凄絶なドラマを生み出していくのです。
 1919年に始まった物語は、第二次大戦をはさんで20世紀のイギリス史を背景に展開していきます。その間にハリーとエマの前に様々な人間が現れ、愛憎と欲望にまみれた出来事が次々に起こります。 裏切り、不倫、詐欺、殺人......まるで聖書の十戒のすべてを破戒するかのようです。しかし一方で愛を保ち続ける二人は、信義を固く守り献身をいとわぬ英国古来の騎士道精神的な行動をとり続け、 それが読む者の胸を強く打ちます。

 果たして二人の純愛はどのような結末を迎えるのか。 発売されたばかりの第7部『永遠に残るは』のラストはあまりにも衝撃的で、 しかも感動的です。稀代のストーリー・テラー、J・アーチャーが人間の美醜賢愚を描き抜いたこの大作、読み始めたら頁を繰る手が止まらなくなること請け合いです。 読書の秋に、ぜひ第1巻からお楽しみください。
 

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2017年11月15日   今月の1冊

「"母娘"という切っても切れない絆で、がんじがらめになっている人に読んでほしい」「痛いけれど、慰められた本」――。 30代~50代の読者から、こんな切実な声が寄せられています。発売直後から売れ行き好調で、早々に重版が決定し、 ベストセラーの予感を漂わせている『長女たち』(篠田節子著・新潮文庫)。 他人事とは思えない介護の実情が3つの物語に描かれ、母親の介護に人生を費やす娘たちの言葉にならない思いが胸にせまってきます。
「空々しい救いは書かなかった」と、著者はあるインタビューで語っています。その言葉通り、母を世話する娘の心情は息を呑むほど切実で、ときに憎しみと苦しみが言葉になって噴出します。
 そこまでして私の人生を邪魔したかったの――。恋人と別れ、仕事のキャリアも諦めて介護する直美の抑えがたい心情。孤独死した父への悔恨に苛まれる頼子。 糖尿病の母に腎臓を提供すべきか苦悩する慧子。老親の呪縛から逃れるすべもなく、周囲からも当てにされ、一人重い現実と格闘する我慢強い娘たち。そのつらい日々であっても、著者は微かな希望を描きだしていきます。 みずからも老母を世話しつつ執筆する著者ならではの、真実にあふれた物語です。
 

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2017年10月13日   今月の1冊