事件を起こした子どもたちを調査し、その問題の原因を探るのが「家裁調査官」。心理描写の名手である乃南アサさんの新シリーズは、この家裁調査官を主人公とした物語です。
2014年から東京家庭裁判所の家裁委員会の委員を務めた乃南さんは、委員としての活動を通し、家裁調査官の存在の貴重さを感じるようになったといいます。そして「裁判所という普通は行きたいとは思わない場所に、とても人間臭く働いている、実に『人間らしい』人たちがいることを知って欲しいという思い」が、本作を書くきっかけになったそうです。
取材だけで2年以上、構想から執筆までは7年もの時間をかけたという渾身の物語。作中では、中学生の少年による自転車窃盗事件やバイク暴走事件、女子高校生によるJKビジネス、職人見習いの少年による傷害事件や、男子高校生による不同意わいせつ事件など、子どもたちがかかわるさまざまな事件が登場します。そして、主人公の庵原かのんがこれらの事件の原因を丹念に探っていくと、その背景に隠された思いもよらぬ真実が浮かび上がってきて――。ミステリーとしてはもちろん、お仕事小説、さらには令和の日本社会の縮図としてなど、多様な読み方、楽しみ方ができる作品となっています。
本作の解説を執筆したのは、京都ノートルダム女子大学名誉教授で、自身も家裁調査官だった藤川洋子さん。藤川さんは「手練れの小説家にかかると、家庭裁判所調査官の仕事や仲間たちはこんなにも魅力的なんだ! 乃南アサ氏による『家裁調査官・庵原かのん』を読み終えて、感無量である」と書いています。
発売即重版となり、大きな注目を集めている本作。この機会に、ぜひご一読ください。