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大人の凝り固まった常識を、子どもたちは軽々と飛び越えていく。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ブレイディみかこ/著

1,458円(税込)

本の仕様

発売日:2019/06/21

読み仮名 ボクハイエローデホワイトデチョットブルー
装幀 中田いくみ/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 254ページ
ISBN 978-4-10-352681-0
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,458円
電子書籍 配信開始日 2019/06/21

優等生の「ぼく」が通う元・底辺中学は、毎日が事件の連続。人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧。時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり。世界の縮図のような日常を、思春期真っ只中の息子とパンクな母ちゃんの著者は、ともに考え悩み乗り越えていく。落涙必至の等身大ノンフィクション。

著者プロフィール

ブレイディみかこ ブレイディ・ミカコ

保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数。

書評

未来は彼らの手の中に

高橋源一郎

 90年代の10年間、4月から10月までほぼ毎月、ぼくはイギリスに通っていた。競馬を見るためにだ。この本の著者、ブレイディみかこさんが住むブライトンにも行った。海がきれいな街だった。そして、映画「さらば青春の光」の舞台だってことは知っていたけれど、その街で、こんな素晴らしい物語が生れたことを、ぼくは知らなかった。それは、ブレイディみかこさんの10歳の息子が中学生になってからの1年半を描いた素敵な(でも、深く考えさせられる)お話だ。
 日本人で保育士で(その他もろもろの)「わたし」とアイルランド人で元銀行員で現大型ダンプの運転手である配偶者との間に生まれた「息子」は、幼児の頃は「底辺託児所」に、小学校の頃は公立で名門のカトリックの小学校に通い「バブルに包まれたような平和な」学校生活をおくる。やがて中学へ。「息子」が選んだのは「緑に包まれたピーター・ラビットが出てきそうな上品なミドルクラスの学校ではなく、殺伐とした英国社会を反映するリアルな学校」、「元底辺中学校」だった。そこは、どんな学校、いや、どんな世界だったんだろうか。
 ぼくはこの本を読んでいる間ずっと、自分の子どもたちのことを考えずにはいられなかった。1学年違いの兄弟である彼らは、幼児の頃からいろんな託児所に預けられた。中には連れて来る親はぼく以外全員風俗嬢(みんな、いいママ友だった)という無認可で24時間保育してくれるところもあった。「底辺託児所」だったんだ。小学校は最初、公立で豊かな家庭の子が多い「名門」に通った。けれども、ぼくは悩んだ。いろいろな理由で。そして、彼らが2・3年生になった時、ちょっと変わった学校に転校させた。試験も成績表もクラスもない、規則は全部自分たちで決める、ついでにいうと「先生」も「生徒」もいない学校だ(そこは全員、名前もしくはニックネームで呼び合うので)。いま中学2年・3年になった彼らは、この前、自分たちで育てた豚で作ったソーセージを食べさせてくれた。美味しかったな、すごく。
 子どもたちが「ふつう」の学校に行かなかったので、逆に、ぼくは、「ふつう」よりもずっと、子どもたちと社会の関わりについて考えなきゃならなかった。きっと彼らもそうだったろう。この本の中の「息子」や「わたし」のようにだ。
 ぼくたちは、「息子」や「わたし」の前に次々と現れる、強烈で印象的なエピソードたちにびっくりさせられる。そして、思わず考えこむ。あるいは、胸をうたれる。そして、最後に、自分たちの子どもや社会について考えざるをえなくなる。入学前の見学会で制服の中学生たちが演奏してくれるノリノリの音楽。廊下に飾ってあるセックス・ピストルズのアルバムジャケット。入学翌日にはもうミュージカルのオーディション。なんだか楽しそう? 表面はね。でも、学校の中にあったのは、過酷なイギリス社会の現実を反映した世界だった。自分だって移民なのに人種差別をし、他の移民にヘイトをぶつける子がいる。貧しくていつも腹を空かしている子がいる。クリスマス・コンサートでハードな現実をそのままラップにして歌う子(「万国の万引きたちよ、団結せよ」だぜ。最高だね)がいる。目の前にある、貧困。差別。格差。分断。憎しみ。「息子」と「わたし」は目を背けず、ユーモアを失わず、その中に入りこむ。それこそが、最高の教育なのかもしれないのだった。
 ぼくの好きなエピソードの一つが、「12歳のセクシュアリティ」と題されたところ。「息子」と、つい差別的な言動をしてしまう移民の友人は、「託児所」時代の知人である、子どもが2人いるレズビアンのカップルと出会い、その友人は驚く。いや、驚くのはまだ早い。学校では、セクシュアリティについてLGBTQに関する授業も行われているのだ。そして、「わたし」は、息子たちが「親のセクシュアリティがどうとか家族の形がどうとかいうより、自分自身のセクシュアリティについて考える年ごろになっていたのだと気づ」くのである。そして、「わたし」はこう考える。いや、ぼくも、また。
「さんざん手垢のついた言葉かもしれないが、未来は彼らの手の中にある。世の中が退行しているとか、世界はひどい方向にむかっているとか言うのは、たぶん彼らを見くびりすぎている」

(たかはし・げんいちろう 小説家)
波 2019年7月号より
単行本刊行時掲載

普遍へと開かれた窓

三浦しをん

 何度も笑い、何度もこみあげる涙をこらえつつ読み進めた。
 ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、英国の「元底辺中学校」に通う息子さんの日々を記したエッセイだ。「じゃあ、子育てエッセイなのかな」と思われるかもしれないが、まったくちがう。
 元底辺中学校に通っているのは、白人の労働者階級の子たちが大半だ。そのなかには貧困層の子もいる。移民の子も少数ながらいるが、やはり大半は白人だ。「白人」と一言で言っても、家庭環境や生活レベルには当然ながらグラデーションがあるし、そこへさらに「移民か否か」「白人か非白人か」といった分類項も加わってくるから、校内はものすごく複雑かつ繊細な様相を呈している。
 著者の息子さんは英国で生まれ育ったが、お父さんはアイルランド人、お母さんである著者は日本人なので、この学校では「少数派」と言える。もちろん、こういった「分類」はすべてアホらしいものなのだが、実際にその街で暮らし、学校に通っていれば、さまざまな軋轢や差別に直面することもあるし、相手の立場やルーツを慮らねばならない局面も多い。
 現に息子さんは、実によく考え、感じ、相手を思いやった行動を選び取るひとなのである。友人たちとのかかわりや、周囲の大人たちの振る舞いを通し、息子さんは思考と感情を豊かに育んでいる。著者もまた、そういう息子さんと楽しく真摯に会話したり、次々に起きる騒動にさりげなく一緒に向きあったりすることで、英国のみならず、日本も含めた世界中が直面している複雑さについて、誠実に考察を深めていく。
 本書は個人的な「子育てエッセイ」ではない。学校や地域といった、一見すると狭いように感じられる「地べた」から、確実に「普遍」を見晴るかす眼差しを宿している。世界と時代と人間を活写した本書を読めば、これが「異国に暮らすひとたちの話」ではなく、「私たち一人一人の話」だとおわかりいただけるはずだ。私は自身の来し方を振り返り、「なぜあのとき、息子さんのような言動を取れなかったのか」と自らの思考と良心の強度を問わずにはいられなかった。
 とはいえ、決して四角四面ではなく、読者になにか(たとえば善行)を強いてくることがないのがまた、本書のすごいところだ。むしろ、キャラ立ちが濃くて、いい意味でいいかげんなひとばかりが登場する。
 いじめられっこのティム(息子さんのお友だち)の危機に駆けつけた上級生が、呼吸するたびに「ファッキン」を連発するジェイソン・ステイサム(似の少年)だった瞬間、「漫画か!」と私は爆笑した。著者のお父さん(福岡県在住・幼児だった孫に泳ぎを教えるため、いきなり玄界灘に投げこむ)は「ベスト・キッド」のミヤギさん似らしいし、著者の配偶者は重要な場面で「知らね」とケツをまくって新聞読んでるし。肝心の息子さんも相当おもしろくて、オアシス風の曲を作ったものの、まだ恋を知らぬお年ごろゆえ、やむをえず「祖父の盆栽」への思いをつづった詞を載せて切々とギターをかき鳴らす。どんな歌だよ! むっちゃ聴きたいよ!
 とにかく、出てくるひとみんなに会ってみたくてたまらなくなる。実際に会ったら問答無用でボコられるのでは、という荒くれものもなかにはいるのだが(なにしろジェイソン・ステイサムだ)、著者のユーモアたっぷりかつ冷静な筆致を味わううちに、かれらの事情や思いが垣間見えてきて、「私はなぜ、ジェイソン・ステイサム(似の少年)を猛獣のように思ってしまっていたんだろう」とハッとする。
 無知による勝手な先入観や偏見や差別意識から完全に自由になるのはむずかしいのかもしれない。けれど本書を読み終えたいま、私の胸のうちに息子さんの言葉がこだましている。
「友だちだから。君は僕の友だちだからだよ」
 ほんとにほんとに、そのとおりだ。ちがいやわかりあえない部分があってもなお、相手を知ろうとし、思いを馳せることはできる。どうして人間に知性と想像力が備わっているのかといえば、自分とは異なるひとと「友だち」になるためではないのか。閉めきっていた部屋の窓が開き、思わずあふれた涙のうえを新鮮な風が吹き抜けていったような、そんな気持ちになった。

(みうら・しをん 小説家)
波 2019年7月号より
単行本刊行時掲載

目次

はじめに
1 元底辺中学校への道
2 「glee/グリー」みたいな新学期
3 バッドでラップなクリスマス
4 スクール・ポリティクス
5 誰かの靴を履いてみること
6 プールサイドのあちら側とこちら側
7 ユニフォーム・ブギ
8 クールなのかジャパン
9 地雷だらけの多様性ワールド
10 母ちゃんの国にて
11 未来は君らの手の中
12 フォスター・チルドレンズ・ストーリー
13 いじめと皆勤賞のはざま
14 アイデンティティ熱のゆくえ
15 存在の耐えられない格差
16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン

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