アンガールズ結成から25年余、芸人として八面六臂の活躍を見せる田中卓志さん。そんな田中さんの初エッセイ『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』が、このたび、新潮文庫より発売となりました。
田中さんの人柄を表すエピソードとして有名なのが、お母さんのお弁当の話ではないでしょうか。バラエティの収録で、お母さんの作ったお弁当を「冷凍食品が入っていて愛情を感じられない」と言われた田中さんが、「おい! お母さん落ち込んでるだろ! 冷凍食品がダメとか言うけどな、うちのお母さんは共働きで看護師をやっていて忙しかったんだよ! 3交代で忙しい中、弁当も作ったから、冷凍食品くらい入るんだよ! でもな、身長を一番伸ばしたのはこの弁当だ!」と反論した一幕。
そのエピソードを綴ったエッセイ「最高の食事」は、林真理子さんや角田光代さんらが選考委員をつとめる「ベスト・エッセイ2022」に選出され、本書にも収録されています。
ほかにも、お笑いをはじめて意識した「いじめっ子とお笑いと」、相方である山根良顕さんとの出会いを描いた「相方か友達か」、ぐだぐだになってしまったプロポーズの一部始終を語った「結婚相手の条件」など、笑いあり感動ありの、悲喜こもごもが綴られます。
さらに今回は、単行本未収録の文庫特典も充実しています。
まず、最新エッセイ「建築士になる」を書き下ろしていただきました。2025年12月に二級建築士試験合格を発表されたばかりの田中さんですが、その裏には苦労も、涙も、笑いもあって......。試験に向けて奮闘する田中さんの姿がユーモラスに描かれています。
また、歌人・穂村弘さんとの対談「「ジャンガジャンガ」という魔法」も特別収録。おふたりの出会い、お互いの印象、エッセイを書くテクニックなど、それぞれの分野で活躍するおふたりが縦横無尽に話をくりひろげます。
大真面目に生きているだけなのに、なぜか歩けば「ちょっと不運」なことにあたってしまう田中さん、お笑いファンも、そうでない人も、「エッセイスト・田中卓志」が大好きになってしまうこと間違いなしの1冊。ぜひこの機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。
『あの日、君は何をした』から始まる「三ツ矢&田所刑事シリーズ」が累計50万部を突破しロングセラーとなっている、まさきとしかさん。まさきさんの新潮文庫初の作品が文庫オリジナルにて登場しました。
舞台は北海道のY市。10年前に解散した男性アイドルグループ「ファンキーカラーズ」の元メンバー・南田蒼太が刺殺体となって発見されます。一体だれが、なぜ──。芸能界を引退し、一般人として生活していた南田でしたが、元アイドル殺害事件としてメディアはセンセーショナルに報道し、ふたたび脚光を浴びることに。
南田と同じ職場のパート女性や、グループの元メンバー、元マネージャー、事件を追う週刊誌記者、かつて南田と一緒に暮らしていた伯母とその娘など、彼をめぐるさまざまな人物たちの視点で事件や南田が語られます。
プロローグとエピローグ、そしてその間に六編が収録された、連作短編ミステリです。
巻末の解説は読書系YouTube「ほんタメ」MCとしても活躍中の女優・齋藤明里さん。
「本作は、南田蒼太が誰に殺されたのか、なぜ殺されたのかという、ミステリーらしいフーダニット、ホワイダニットの謎に翻弄され、ページをめくる手が止められなくなります。しかし、それだけでは終わりません」と、本作の魅力を綴っています。
新潮社のPR誌「波」では、書評家の大矢博子さんが寄稿してくださいました。
「時にはじわじわと、時には一撃で、読者を搦めとる。これぞまさきとしかの真骨頂と言っていい」とこちらも大絶賛です。
発売5日目で早くも重版が決まった本作。札幌在住の著者が描く、身も心も凍り付くような衝撃のラストをぜひ体験してください。
発売直後からかなりの売れ行きとなっています。著者の代表作にして傑作の本書は、66年前に刊行されました。描かれる社会背景もエンタメとしての物語性も、現在とはずいぶん異なる小説ですが、なぜ今、多くの読者を掴んでいるのでしょうか。
ひとつは、名作映画「野獣死すべし」を見た世代が買っていることが考えられます。タイトルから松田優作を思い出した方もいるでしょう。二つ目は未読だったからこの機会に、という人もいるでしょう。そして三つめは、最近とみに少なくなった「本格ハードボイルド」のドライでざらついた世界を読みたいというニーズが、潜在的にあったということではないでしょうか。
ドライでざらついた世界。それは主人公伊達邦彦のキャラクターそのものです。銃だけを愛する彼は、相手がだれであろうと容赦なく撃つ男であり、共感や感動には憎しみしかない男です。端正な風貌に狂気を湛え、鍛え上げた身体と冷徹な知性で大胆な犯罪を実行する。そこには優しさもなければ人間性もありません。
著者は戦前、軍の卑怯さを目撃し、その怒りを原動力に本作を書いたと言います。国家に対する怒りを秘め、社会の圏外に立つ「ローンウルフ」の孤独。徹底的に虚無を生きる「野獣」は、令和の今、鮮烈に蘇ったと言えるのではないでしょうか。
没後30年の今年、装幀と解説を新たに復活した傑作をご堪能ください。
庵原かのんは、横浜家庭裁判所川崎中央支部に赴任してきたばかりの家裁調査官。離婚や相続など家庭内のさまざまな「家事事件」を担当しています。
彼女のもとに持ち込まれるのは、記憶喪失の男の身元確認や行方不明者の居場所探し、奇妙な離婚調停など一筋縄ではいかない案件ばかり。それぞれの家庭にはさまざまな「謎」が隠され、それが解き明かされた先には──。
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本作は、家裁調査官である庵原かのんを主人公としたシリーズの2作目です。前作『家裁調査官・庵原かのん』では、福岡家裁北九州支部で少年事件を扱っていたかのんですが、今作では勤務地が川崎に変わり、家事事件の担当になりました。シリーズ作品ではありますが、2作目である本作から読んでも楽しめます。川崎のソウルフードであるというニュータンタンメンなど、川崎ならではの料理も見逃せません。
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本作の著者である乃南さんは、2014年から東京家庭裁判所の家裁委員会の委員を務めました。そして「裁判所という普通は行きたいとは思わない場所に、とても人間臭く働いている、実に『人間らしい』人たちがいることを知って欲しいという思い」が、本作を書くきっかけになったといいます。
乃南さんが描いた家裁調査官たちには、どんなドラマが待っていたのか? ミステリー、お仕事小説、令和の日本社会の縮図としてなど、さまざまな読み方、楽しみ方ができる本作。発売即重版となり、大きな注目を集めている物語を、この機会にぜひご一読ください。
週末に、気分転換のつもりで近所の低山へハイキングに出掛けたまま、戻らない。山岳遭難はエベレストや富士山といった弩弓の山で起こるわけではありません。むしろ「そのあたりの」山で起こるのです。
著者の中村富士美さんは看護師として東京都の病院に勤務する傍ら、民間の山岳遭難捜索団体LiSSを立ち上げました。中村さんは山登りについては、ほぼ素人。しかし素人だからこそ、プロは気づけない目線で遭難者を捜し出し、ご家族との対面を実現させてきました。
中村さんはまず、遭難者の格好、思考の癖、普段の行動などを事細かくご家族から伺います。その上で「この人ならこう行動するはずだ」と緻密な予測をたて、山に分け入るのです。発見までのプロセスはまるで推理小説のようです。そしてご家族の「せめて最後のお別れをしたい」という切実な願いに応えます。
中村さんによれば、山での遭難を防ぐために一番大切なことは、派手な色の服を着るということです。目立つので、探索ヘリなどが発見しやすいそうです。また、道に迷うと人は山を下りたくなりますが、絶対に下らず、むしろ上へ上へと登るべきなのだそうです。
本書には目から鱗の山での注意点が満載です。


































