ベネディクト・カンバーバッチ扮するシャーロック・ホームズが活躍する「SHERLOCK(シャーロック)」が英国のみならず、日本を含めた世界中で人気沸騰中。映像の美しさ、展開の見事さ、ミステリとしての構築度の高さからミステリファンだけでなく、数多のシャーロキアンたちを唸らせている。
「SHERLOCK」では、舞台を21世紀のイギリスに移し、電報は携帯(スマホ)に、馬車はタクシーに置き換えられ、原作で“ヘビースモーカー”だったホームズは“ニコチンパッチで禁煙中”だったり、ホームズの“伝記”を書くワトスンは“ブログ”で事件のあらましを書き綴ったりするなど現代的なアレンジになっている。
また、原作通り主人公2人が同居し始めるのだが、周囲からゲイだと思われ、気を遣われる様子も同性愛が認知されている現代だからこその演出だろう。
しかし、全体的な枠組みは驚くほど原作をなぞっており、各場面には作り手の拘りと遊び心、なにより原作への愛が滲み出ているのが「SHERLOCK」の魅力の一つだ。
例えば、シャーロック・ホームズのトレードマークといえば“鹿撃ち帽”だが、実は原作にそのような記述はなく、1891年の「ボスコム渓谷の惨劇」に描かれた挿絵によるイメージが一般的に広がったものである。
「SHERLOCK」では、マスコミから顔を隠すために被った鹿撃ち帽のせいで世間ではトレードマークとされてしまう。ある記者会見の場でも鹿撃ち帽を被ってくれとマスコミに頼まれ、嫌々被るという場面があり、挿絵が一人歩きしてしまっていることを皮肉っている。
他にも原作のエッセンスが詰め込まれた部分がたくさんある。「小説新潮 2014年5月号」に掲載された【The Adventures of 「SHERLOCK」】から少しだけ紹介しよう。
以下、「SHERLOCK」においては、シャーロック、ジョン。
コナン・ドイルの原作においては、ホームズ、ワトスンとする。
アフガニスタン紛争の皮肉
▼『緋色の研究』には、ワトスンは「第二次アフガン戦争」から還ってきたとの記述がある。「ピンク色の研究」でも、同じようにアフガニスタンから帰国したことになっているが、こちらは2001年に勃発した「アフガニスタン紛争」のことだと思われる。世紀を二つまたいでも、イギリスとアフガニスタンが同じように紛争を抱えているというのは皮肉な偶然である。
地動説を知らないシャーロック
▼ジョンの書くブログで、地動説を知らないことを暴露されたシャーロック。贋作を見抜く際にも、「太陽系について知っていれば」とジョンから嫌みを言われる。ホームズが化学や地質学に対してずば抜けた知識を持つ一方で、地動説を知らないとワトスンが驚くのは『緋色の研究』の有名なエピソード。
たばこの灰についての論文
▼ドラマ中では、「異なる二四三種類のたばこの灰について」という論文を書いているシャーロック。「ボスコム谷の惨劇」ではたばこの灰について刻みタバコ、葉巻、紙巻など百四十種の灰を調べて小論文を書いたことがあると語っている。
7%
▼煙草が吸いたくて苦しんでいるシャーロックに、「お茶でも」と優しく誘うハドソンさんへの返答、「お茶より強いものじゃないと。7%くらいの」は、7%のコカイン溶液を皮下注射しているという原作の記述にちなんでいる。
スポーツ新聞を読む男
▼賭のふりをして情報を引き出す場面は原作では「青いガーネット」に見られる。シャーロックは、地元の若者、フレッチャーのポケットから「RACE」という新聞が覗いているのを見てこの作戦を立てるが、「青いガーネット」の中には、「ポケットからスポーツ新聞なぞのぞかせている男を見たら、いつでも賭けで釣れると思ってよい」というホームズの台詞がある。
さらに、シャーロック・ホームズを読み込んでいる人でも見逃している作り手の遊び心が、ジョンをシャーロックに引き合わせるキッカケになったスタンフォードとの再会の場面に見られる。
ジョンの持つコーヒーカップ
▼原作ではクライテリオン・バーで再会したワトスンの助手スタンフォードだが、「SHERLOCK」では学生時代の友人としてスタンフォードに公園で会う設定になっており、その時にジョンが持っているカップをよく見ると、Criterionという文字がある。
脚本とプロデュースを手がける、スティーブン・モファットとマーク・ゲイティスによれば、「SHERLOCK」で『みんなが好きだと思う部分はだいたい原作を採用した部分』なのだが、『みんな気付いていないんだ』とインタビューに答えている。
原作を読むことで、作り手が「SHERLOCK」に潜ませた拘りや遊び心を汲みながら、さらに面白い見方ができるだろう。

特集【The Adventures of 「SHERLOCK」】

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原作を知れば、ドラマはもっと楽しい 世界で熱狂をもって迎えられたBBC製作の「SHERLOCK」。ドラマ自体の素晴らしさもさることながら、そこに潜む常軌を逸した「ホームズ愛」には目を見張るものがある。原作とドラマを10倍楽しむための大特集!
◆Making of 「SHERLOCK 3」日本語版 ◆The Memoirs of 「SHERLOCK」 ◆More Stories of Sherlock Holmes ◆The Case-List of Sherlock Holmes [→]小説新潮 2014年5月号 |

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