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『神戸・続神戸』~数々の作家が賛辞を送った名著の復活~


「戦時下の神戸に、幻のように出現する『千一夜物語』の世界」。解説者の森見登美彦氏は、『神戸・続神戸』をこのように評しました。著者・西東三鬼は「水枕ガバリと寒い海がある」という鮮烈な句でも知られる新興俳句の旗手で、若き日にシンガポールで歯科医院を営んだこともある、国際派。彼は昭和17(1942)年の冬、"東京の何もかも"から脱走し、さまざまな外国人が滞在する神戸のホテルに居を定めました。三鬼は当時軍需会社と取引する商人だったのですが、「センセイ」と呼ばれ、さまざまな相談を持ちかけられることに。

 夜な夜な貴重なレコードを共に聞く、エジプト人の親友マジット・エルバ。20歳の台湾人"基隆(キールン)"は国民服に身を固める、模範的な「日本人」でした。ロシヤ女性ナターシャとはある女性をめぐって口論となります。そして、米潜水艦の跳梁のために神戸に足止めされていたドイツの水兵たちもが、缶詰や黒パンを抱えてこのホテルを訪れていました。戦争が重く覆い被さる中、男と女、多国籍の人々の人生が交じりあい、うたかたのドラマがネオンのように明滅します。

 自由を希求する魂の持ち主・西東三鬼が残した奇跡のような2編――あなたも虜になること、間違いありません。

 訓練空襲しかし月夜の指を愛す 三鬼

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2019年08月15日   今月の1冊
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