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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

リニューアルしません

 前回お伝えしたように、この4月から編集長が替りました。だからといって、新書の内容が大幅に変ることもありませんし、便乗値上げもありませんのでご安心ください。
 メールマガジンもこれまで同様に配信し続けますので、よろしくお願いします。執筆者が替る以外は何も変りません。変えてろくなことはない気がします。
 というのも雑誌が「リニューアル」とか「誌面一新」をすると、大抵読者が逃げていくというのが業界の定説なのです。

 こんな話があります。かつてある雑誌が長年表紙を飾っていたイラストを変更しました。するとビックリするくらいに部数が激減したのです。確かその変更前の半分以下くらいに落ち込んだということでした。
 当然編集部は焦ります。が、だからといって「やっぱり元に戻します」とすぐに変更するわけにはいきません。
「変えてすぐだから、気づかない人も多かったんだろう。すぐにまた元に戻るよ」
 そんな楽観的な見方もありました。
 ところが、何号続いても部数は戻りません。それでも「やっぱり元に戻します」とはできません。新しい表紙を作る人には、それなりの長期間依頼しているわけです。しかもその人にも作品にも何の罪もありません。
 結局、しばらく経ってから昔のテイストに表紙を戻したものの、その雑誌はそれからしばらくして消えてしまいました。リニューアルから一年足らずだったでしょうか。
 そもそも雑誌が「リニューアル」を謳うときは、部数が落ち込んでいる場合が非常に多いのです。そしてどういうわけだか、それはかなりの確率で失敗します。
 百貨店やスーパー、もしくはパチンコ店では「新装開店」とすると盛り返すことがよくあるようですが、雑誌など出版物では成功例を探すのが大変です。それでも「リニューアル」の誘惑に駆られてしまうのは、どこかで一発逆転の可能性を感じてしまうからなのでしょう。何だか知らないけど「ニュー」と付いていると「改革」という感じがして、「改革」というと「良いこと」という気がして、「良いこと」ならば評価されるに違いない、と思ってしまうのです。

 4月の新潮新書は創刊5周年ということで、強力な5点を揃えています。偶然にも、5点とも「改革」や「変化」がキーワードのひとつになっています。
 藤本篤志著『御社のトップがダメな理由』は、成果主義や360度評価など「一見、新しげで良さそうな改革」に飛びつく日本企業のトップたちを痛烈に批判した一冊です。
 与謝野馨著『堂々たる政治』でも、「これからは市場原理だ」と囃す人たちの無責任さを厳しく指摘しています。意外なことにこれが初の著書で、安倍政権末期の秘話も盛り込まれています。
 福田和也著『教養としての歴史 日本の近代(上)』は、江戸から明治にかけての激動の50年を大胆かつ明晰に捉え直しています。なぜ日本は驚異的なスピードで近代国家となったのかがすっきりとわかります。
 川本三郎著『向田邦子と昭和の東京』からは、失われた昭和への郷愁が感じられます。向田作品の魅力を再認識できる一冊です。
 岡田斗司夫著『オタクはすでに死んでいる』でも、「昭和が終わった」ことが大きなテーマのひとつです。その結果、日本人が皆オトナになることを拒否し始め、クレーマー社会が誕生した、という斬新な指摘には目からウロコが落ちること必至です。
 リニューアルも路線変更もしませんが、これまで同様に新しくて面白く、かつ安定感もある新書を出していきますので、ご愛読いただければ幸いです。

2008/04