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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

日本人の評判

 音楽雑誌を読んでいると、来日したロック・ミュージシャンが日本の印象を語っていることがよくあります。たいてい、皆さんが口々に日本を絶賛しています。
 よその国にきて「この国は最低だな! ファック!」というような非常識な人はいくらロック関係者でも滅多にいないので、ある程度はリップサービスと思ったほうがいいのでしょうが、それでも悪い気はしません。
 以前印象的だったのは、かなり攻撃的な音楽をやっている人が「日本人がきちんと横断歩道で信号待ちをしていて、青になるといっせいに渡りだす姿は大変美しい」というような話をしていたことでした。普段ステージ前で大混乱する群衆を見ているだけに、そう思うのでしょうか。
 よく言われていることですが、日本人自身は、どういうわけか「外国で日本は嫌われている」「ヘンだと思われている」という話を重宝します。最近でも、外国人と結婚された女性の文章を読んでいたら「彼にウォシュレットを笑われた」と恥ずかしげに書いていました。そういう際には、黙っていないで、いかに素晴らしいマシンであるかを伝えるのが国民の務めではないかと思うのですが。

 8月の新刊『ニッポンの評判―世界17カ国最新レポート―』(今井佐緒里編)は、タイトル通り、「日本はどう思われているか」について、世界中で暮らす日本人たちがレポートしたものです。日本にいると、何だか世界中から嫌われたり軽んじられたりしているような気分にさせられる報道が多いのですが、実際にはそんなことはなく、思った以上にモテていることがわかります。オーストラリアの女性には、「日本男性はキュート」と言う人が多く、トンガでは「中国人は嫌いだけど、日本人は好き」と公言する人が珍しくないそうです。図に乗る必要はないでしょうが、日本人であることに誇りを持てる一冊です。
『気骨の判決―東條英機と闘った裁判官―』(清永聡著)は、これまでほとんど語られたことがなかった、誇りある日本人の物語です。作家の阿川弘之さんは「日本人の誇りとすべき史実であり、みんなが味読すべき物語」と推薦コメントを寄せてくださっています。
 太平洋戦争末期に行われた、いわゆる「翼賛選挙」は、戦争に積極的な候補者がきわめて有利な条件で選挙戦を戦えました。その選挙の無効を訴えた裁判の裁判官がこの本の主役、吉田久です。吉田はこの訴えに対して、自ら聞き取り調査なども行い、「時局に左右されない公平な判決」を下そうとしますが、次々に妨害、圧力が襲ってきます。それに対して彼はどのように闘ったのか。感動感涙必至のドキュメントです。
 毛色の違った感動を味わうのに、格好のガイドブックは『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(神舘和典著)。数多くのミュージシャンに取材してきた著者が、「初心者でも必ず感動できる」という基準で選んだCD50枚と、さらにプラスαとして77枚をリストアップしています。人気ピアニストの上原ひろみさんが推薦コメントを寄せてくださっています。
 もう1冊『どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門―』(大内伸哉著)は、「使える」一冊です。「社内不倫」「転勤拒否」「社内事情をブログで書いた」「給料ドロボー」等々、様々なケースを取り上げて、「法的にどこまでがセーフでどこからがアウトか」をていねいに解説しています。
 日本人うんぬんよりも組織人としての常識に興味のある方には強くお薦めいたします。

2008/08