新潮新書

総裁選が新書対決に

困ったことに、というべきか、面白いことに、というべきかはわかりませんが、新潮新書の著者お二人が自民党総裁選で争うことになってしまいました。『とてつもない日本』の麻生太郎氏と、『堂々たる政治』の与謝野馨氏です。
いつかはこういう日が来るのでは……と予見していました、と言えればカッコいいけれども、実際にはほとんど予想していませんでした。もともと編集部がお二人に執筆を依頼したのは、総裁候補だからではなくて、「語る言葉を持っているから」という理由だったのですから。
興味深いのは『堂々たる政治』の中の一節。安倍前総理の辞任会見について、与謝野氏はこう記しています。
「一国の総理がその座を去る時には、きちんと国民にわかるように説明をしなくてはいけなかった。それも推敲に推敲を重ねた文章で、自分の置かれた立場、心境を明確に国民に伝えるべきだったのである。それが残念でならない」
今回の辞任会見にもそのまま当てはまる言葉のように思えます。「自分のことは客観的に見えている」とのことなので、推敲なんて必要なかったのかもしれませんが。
さて、当然ながら新潮新書は推敲に推敲を重ねたうえで作られています。
9月新刊4点をご紹介いたします。
『ラーメン屋vs.マクドナルド―エコノミストが読み解く日米の深層―』は、タイトル通り、日本人エコノミストが日米の違いについて鋭く分析した一冊。
従来の「日米比較」のウソを突き、次々に鋭く切っていきます。たとえば「日本人はリスクを恐れて貯蓄一辺倒だが、アメリカ人は、一定の金を投資に回す」という「定説」は間違いだ、と著者は喝破します。
エコノミストだけあって、データに基づいており、説得力は十分。目からウロコの指摘が詰まっています。
『新書で入門 宮沢賢治のちから』は、賢治の生涯、作品を知るのに格好の入門書。賢治の持っていた五感と第六感、そして共感覚という「ちから」に注目して、その魅力、凄さを平易に伝えています。
『文豪たちの大陸横断鉄道』は、文学好き、鉄道好き、どちらが読んでも満足できる内容です。漱石や荷風と一緒に、大陸横断鉄道の旅に出かけてみてください。
『「名医」のウソ―病院で損をしないために―』は、いま病気の人も、いつかは病気になるであろう人も、つまり国民全員が必携の書です。そんな大げさなと思われるでしょうが、ここに書かれている、医師との対話法、病院の選び方を知らないと、それこそ命取りになりかねません。
「もう政治も国も信用できん。頼りになるのは自分だけ」という方ならなおのこと、身体が資本ですから、一読することをお勧めいたします。