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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

タイムリーで普遍的な本

 新書を刊行する場合、通常、発売の3か月前には原稿を印刷所に渡すことになっています。これが「入稿」です。
 このような進め方をすると、本の正確さは増しますが、一方で速報性、ニュース性を損なう可能性もあります。いまここに「リーマン・ショック」に関する未入稿の完成原稿があったとしても、刊行は早くて来年2月以降。そのときそれがタイムリーな話題かどうかはわかりません。こういう流れなので、タイムリーさを狙うのは結構難しく、計算ずくのつもりだったのに、それがこちらの浅知恵にすぎず、外すことも結構あります。
 一方で、世の中の流れがいつの間にか本のほうに近づいてくるようなこともあります。
 他社の本ですが、最近刊行された『強欲資本主義 ウォール街の自爆』(神谷秀樹・著、文春新書)は、世の中の流れと刊行時期がちょうど合致した好例です。

 新潮新書11月刊行の『人間の覚悟』(五木寛之・著)も、おそろしいくらいに世の中の流れや気分と刊行時期が合致している本だと思います。著者はこの本のなかで、これからは「下り坂の時代」になるということを様々な形で強調しています。ここで書かれている時代認識、人間観は普遍的であると同時に、きわめてタイムリーでもあります。恐慌前夜ともいわれる今、私たちが持つべき「覚悟」をやさしく、深く説いた一冊です。
『民主党―野望と野合のメカニズム―』(伊藤惇夫・著)もタイムリーな本です。次の選挙以後は政権政党になるかもしれない存在であるにもかかわらず、これまで民主党の歴史、組織、政策、人脈などをきちんと整理した本はありませんでした。自民、民主どちらを選ぶつもりにしても、有権者必携の内容です(もちろんその他の党に投票するつもりの方も読んで損はしません)。
 残りの新刊2冊は、ニュース性というよりは、独自性が際立った内容です。
『先生と生徒の恋愛問題』(宮淑子・著)は、タイトルそのままの内容です。学校、社会ではタブーとされ、それゆえにほとんどまともに検証されなかったこの問題について、著者は数多くの当事者たちに詳細な取材を試みています。恋愛が成就したケースもあれば、犯罪とされたケースもあります。いずれの場合も当事者たちでしか語れない言葉には、重みがあります。
『テレビ番外地』(石光勝・著)は、東京12チャンネル(現テレビ東京)の元名物編成局長の回顧録。視聴率が低く、最悪の時期には一日四時間放送のときもあった、同局の秘話が満載です。予算も視聴率もない状況で、どう面白い番組を作っていったか、このへんは実は今のテレビ界、ビジネスにも通じるテーマといえるかもしれません。

2008/11