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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

タイトルはとても難しい

 先日、「僕らのミライへ逆回転」という映画を見に行きました。アメリカの田舎町にあるレンタル・ビデオ店が舞台のコメディです。
 あるトラブルから店のビデオが全部パーになってしまい、仕方がないので店員とその友人たちは、名作映画のバッタモノを自主制作し始めます。「ゴーストバスターズ」に始まり、「2001年宇宙の旅」などの名作、有名映画を自分たちだけで「リメイク」するのです。出演は全員、町の人間ですし、ロケ地も近所ばかり。セットや衣装は段ボールなどを利用したハンドメイド。当然、滅茶苦茶な作品になるのですが、これが意外な評判を呼んで……というお話です。
 基本的にはコメディなのに、最後は意外なほど感動もできて、大変満足しました。しかし気になったのはタイトル。鑑賞後、「あのタイトル(邦題)と内容が合っていない気がするのだけど」と感想を口にしました。
 そして、すぐに反省しました。

 そう、これは私たちもよく言われることなのです。そして、そのたびに「考えに考えた末、こうなったのですよ」と悲しく思うのです。
「僕らの~」の原題は「Be Kind Rewind」で、訳すと「巻き戻してご返却ください」。この路線でどう加工しても、とてもタイトルになるはずがありません。きっと映画会社の担当の方々が考えに考えた末に、今のタイトルになったのでしょう。実際、そのあと自分ならどういうタイトルにするか考えましたが、ロクなものは思いつきませんでした。一瞬でも無責任な感想を口にしたのが恥ずかしくなりました。

 12月刊の4点もタイトルが確定するまで、かなりの時間を要しました。タイトルだけでは、何だかわからないものもあるでしょうから、ご説明いたします。
『女装する女』は、現代女性を10のキーワードで読み解いた一冊。タイトルの由来は、日常生活では自分が女という意識が薄くなっているため、「ここぞ」という合コンなどのときに「今日は“女スイッチ”を入れて、女装していく」と気合を入れる女性がいる、というエピソードから来ています。他にも「エコ女」「バーター親孝行女」等、これを読まねば現代社会はわからない、という鋭い分析が詰まっています。
『カラオケ秘史』は、カラオケの歴史をまとめたものです。なぜ「秘史」かといえば、これまで報じられていなかった「幻の発明者」の存在など、新事実が次々明らかになっているからです。
『「汚い」日本語講座』は、金田一秀穂先生の自由自在、縦横無尽、奇想天外な日本語講座。「メクソとハナクソの汚さ」から話が始まるので、こんなタイトルになりました。
『〈人使い〉の極意』は、戦国の知将たちが遺した家訓を大胆に読み解いた一冊。歴史物としてはもちろん、ビジネス書としても使える内容なので、あえて「人使い」を前面に出してみました。
 タイトルに惹かれた方も、違和感を持った方も、とりあえず開いてみていただければ、きっと満足していただけると思っています。

2008/12