新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

腰の問題

 疑惑の人の記者会見を見て、不満を感じたことはないでしょうか。「もうちょっと、そこ突っ込めよ」とか「何でそういう聞き方になるの」とか。
 この原稿を書いている日に開かれた、小沢一郎民主党代表の記者会見を見ていても、そういう不満を感じました。
 質問のなかで、個人的に一番嫌なのが「○○という声もありますが……」というパターン。「国民の中には説明責任を果たしていないのではないか、という声もありますが……」「辞任を求める声もありますが……」というやつです。
 もちろん、それが高度な「ひっかけ」である場合もあるのでしょうが、おそらくは単にストレートに聞くのが怖いからじゃないか、と思えてならないのです。「説明責任を果たしているとは到底思えないのですが」「辞任すべきだと思いますが」というと何だか角が立ちそうで怖い、相手の顔が怖い、バックが怖い、という気持ちが聞く側のどこかにあるのではないか。
 いくら相手の顔が怖いからって、記者会見の場で殴られるはずもないのだから、もっとストレートに質問して欲しい、と思います。
 腰が引けているんじゃないか。野次馬にはそう見えてしまうのです。

 3月の新刊をご紹介します。
『将軍様の錬金術』は、腰が引けたスタンスとは対極にある腹の据わった一冊です。朝鮮総連がどのようにして日本で資金を集めていたか、朝銀が破綻するまでのプロセス、パチンコ屋に絡んだ投機……。著者の金賛汀さんは、これでもかとばかりに、朝鮮総連の内部情報を書き込んでいます。本当にここまで書いて金さんは大丈夫なのか、いや編集部は……と不安になるくらいですが、出すことを決めた以上は仕方ありません。
『偽善の医療』は、現役の医師がここまで書くか、という医療論。章タイトルをご覧いただけば、その覚悟がおわかりなはずです。「患者さま撲滅運動」「消えてなくなれセカンドオピニオン」「『病院ランキング』は有害である」「間違いだらけの癌闘病記」等々。刺激的で毒もたっぷり含まれていますが、読後はある種の爽快感を得られる、稀有な本になっています。
『大人のための名作パズル』は、暗い話が多い昨今、ちょっとした息抜きにピッタリの名作パズル集。電車の中で読むと、思考の散歩ができるのではないでしょうか。
『ネコ型社員の時代』は、会社や仕事に行き詰まり感を覚えている人にぜひ読んでいただきたい社会論にしてビジネス書。「若い社員にやる気があるんだかどうだかわからん」「上司の掛け声がうるさくてたまらない」「会社の採用基準がどうもうまくいってないのではないか」「もはや高度成長が望めない日本において、私たちはどう働くべきか」という疑問に対する答えを示しています。
 その問いを解くキーワードが「ネコ」です。「それだけでは内容がわからないという声がありますが……」という質問が出るかもしれませんが、こればっかりは短い文字数ではお伝えできません。ただ、上に書いたような疑問を一度でも抱いたことがある方が、大きなヒントを得ることは間違いありません。

2009/03