新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

叱られて

 少し前に、連日、大新聞に新潮社の名前が載っていることがありました。「でかした!」という趣旨ではなく、「けしからん!」という内容だったので、他部署の話とはいえ、読むたびに気がめいったものです。けしからん! のはその通りなので、仕方がないといえば仕方がないのですが、それでも毎日のように怒られると参ります。読みなれているはずの新聞が恐怖新聞に見えてくるほどでした。
 こういうときに励ましの言葉をくださる著者の方もいらっしゃいます。弱っているときだけに心遣いがとても身にしみました。なかでもホッとしたのは、ある方の一言でした。
「大丈夫だよ。そっちが思っているほど、世間は関心ないよ。みんな忙しいんだから」
 もちろんけしからんことについては、反省しなくてはいけないことは百も承知しています。別に開き直ろうというのでもありません。それでも精神的にとても楽になれました。新聞を見ても寿命が縮まらなくなりました。

 そんなわけで前向きな気分で、6月の新刊をご紹介いたします。
『松下幸之助は生きている』(岩谷英昭・著)。前アメリカ松下CEOが、自らのビジネスキャリアと、それを支えた松下幸之助の言葉について著しています。大不況のときにもリストラをしなかったということで幸之助哲学は最近また脚光を浴びています。その魅力を知るのに最適です。
『凡人起業―「カリスマ経営者」は見習うな!―』(多田正幸・著)は、松下幸之助、孫正義のようなカリスマ性がない人間が起業するには何が必要か、をわかりやすく教えてくれるビジネス書。著者によれば、そもそも創業社長には変わった人、非常識な人が多いそうです。だから、常識人が起業するときに、そういう人をお手本にすると、えらい目に遭う。じゃあどうすればいいか。著者はユーモアを交えて解説します。起業する気がない人にも、ユニークな社長論として楽しめる内容です。
『女子大生がヤバイ!』(小沢章友・著)は、10年以上、女子大で創作講座を持つ著者が、教え子の作品から選りすぐりの傑作を紹介します。メールやケータイのおかげで、若い人の文章力が向上している、という説がありますが、実際、ここに並んでいる作品はどれもかなりのレベルです。少なくとも私は大学生時代にこんなものを書く能力はありませんでした。テーマは友人のこと、親のことから、性経験まで多岐にわたっています。
 そして、ようやく刊行に至ったのが『教養としての歴史 日本の近代(下)』(福田和也・著)。上巻が昨年4月刊なので、かなり間が空いてしまいました。編集部にも時折「いつ下巻が出るのか」というお問い合わせをいただいておりましたが、内容はお待たせした分、充実していると思います。日本の近代がすっきりと頭に入るうえに、読み終えたときには感動が訪れることを保障いたします。
 いずれも「でかした!」と言っていただける新刊だと思っております。

2009/06