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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

コッテリした新刊です

「見た目ほどクドくない」
「コッテリかと思ったら意外とアッサリしている」
 どういうわけだか世の中はコッテリを敵視しているようで、ラーメンのグルメレポートでも、この種のコメントを見聞きします。
 なぜコッテリしていてはいけないのか。そんなにアッサリは偉いのか。そもそも背油ギトギトのラーメンを「意外とアッサリ」って何と比較しているのか。重油か。
 いつから世の中はこんなにアッサリを尊重するようになったのでしょうか。
 年のせいか最近はクドいものがしんどいときも多いのですが、それでも豚骨ラーメンを食べたいときはあるし、それは体が欲しているからだと思うのです。
 そういえばスキャンダルが連続した若手人気女優に、所属事務所が「肉食禁止令」を出したというような記事が週刊誌に出ていたこともありました。真偽はともかく、まだ若い彼女の体はきっとそのとき肉や脂を欲していたのかもしれません。

 8月の新刊『血の政治―青嵐会という物語―』(河内孝・著)は、かなりコッテリした内容です。とにかく登場する政治家たちが熱い。暑苦しいとすら感じます。
 青嵐会は、中川一郎、渡辺美智雄、石原慎太郎、藤尾正行、綿貫民輔、山崎拓、森喜朗、浜田幸一ら31名の自民党議員が、1973年夏に結成した政治集団です。
 何せ結成時には血判で契りを交わしたというから、その時点で相当に熱い。気に入らないことがあれば、机をひっくり返し、コーラ瓶や灰皿を投げつける。日本武道館で国民参加の集会を開いたり、党とは別に新聞に意見広告を出したり。
 この人たちが「豚骨ラーメン」ならば、最近の政治家はソーメンか。ともかく抜群に面白い政治家の人間ドラマです。これを読むと今の政界に足りないものが何かもわかります。
 他の新刊3点をご紹介します。
『メディアとテロリズム』(福田充・著)は、タイトルにある両者の切っても切れない関係を深く考察した一冊。「メディア受け」を狙うテロリストたちと、派手な映像で視聴率を稼ぐテレビ側との共犯関係を絶つ方法はあるのか。著者はそこにまで踏み込んでいます。
『センスのいい脳』(山口真美・著)は、センス=感覚を切り口に脳の不思議に迫った内容。「センスの悪さ」は親譲りなのか? なぜ大阪のおばちゃんは派手な服を着たがるのか? 身近な疑問から、次第に話は脳と感覚の根源的な方向へ向かいます。
『腹八分の資本主義―日本の未来はここにある!―』(篠原匡・著)は、財政難や人口減など様々な問題を、知恵や譲り合いの精神で解決している自治体、企業についてのレポート。「腹八分」というキーワードから、「強欲資本主義」では対処できない問題の解決法が見えてきます。中味は濃厚ですが、後味がこれ以上ないほど爽やかです。コッテリしているうえにスッキリしている本です。

2009/08