新潮新書
麻生太郎とたこ八郎
テレビのニュースで、容疑者の写真を見て、続いて年齢を見たときに、自分と同い年だといろいろと考えさせられます。その人の境遇とかそういうこともそうですが、それ以上に、最近は「俺、こんなにおっさんになったのか」と衝撃を受けることが多いのです。
自分の脳内には明らかにまだ中2的な部分が相当残っているのに、写真で見る「同級生」は純度100パーセントのおっさんです。
一方で同い年のスポーツ選手などが活躍しているのを見ると、何だか自分の手柄のように思えることもあります。自分は家で横になってテレビを観ているだけなのに。
おそらく誰にとっても「誰と同い年か」というのは、琴線に触れるテーマだと思います。じゃあそれを一覧できる新書を作ろう、ということで出来たのが10月新刊の『同い年事典』(黒川祥子・著)。1900年~2008年まで、各界の有名人を生年別に並べたシンプルな作りの、これまでありそうでなかった本です。
自分の同い年以外も、眺めていると発見や驚きがたくさんあります。「麻原彰晃とビル・ゲイツ」「麻生前首相とたこ八郎」など、何だか意味がありそうな、なさそうな……。
この一冊あれば、家庭でも飲み屋でも話題が尽きることはありません。お世辞をいいたい相手には「○○さんと同い年なんですね。すご~い」と言い、嫌いな奴については「●×と同い年なんて、どうりで嫌な奴だぜ」と陰で言うという使い方もあります。
この本と同い年、同じ月生まれになる、他の新刊3点もご紹介いたします。
『ギャルとギャル男の文化人類学』(荒井悠介・著)も、これまでにまったくなかったタイプの新書です。テレビや街で見かける「ギャル」「ギャル男」とはいかなる生き物なのか。著者は文化人類学的手法で、彼ら「謎の部族」の思考、風習、価値観等を明らかにしていきます。実は著者自身が、ギャルやギャル男で構成するイベサー(イベントサークル)のメンバーだったこともあり、その調査は細部にまで行き届いています。これまで活字に記録されなかった彼らの生態が詳細にわかります。「あいつら何なんだ」と思っている方には特にお勧めです。異星人のように見える彼らに妙に親近感を持つようになるかもしれません。
『日本語教のすすめ』は、言語社会学の大家、鈴木孝夫氏の半世紀にわたる研究生活の集大成ともいえる1冊。というと堅苦しい内容のようですが、とんでもない。「日本語は世界に誇るべき大言語である」という主張の著者がその面白さ、素晴らしさについての知識を惜しげもなく披露しています。自分がいかに日本語の素晴らしさを知らなかったのか、思い知らされ、打ちのめされ、読後は必ず「日本語教」の教徒になっているはずです。
『「文系・大卒・30歳以上」がクビになる』(深田和範・著)は、この先、企業で何が起きるか、それにどう備えるかを極めて論理的に分析、解説したビジネス書。なぜ日本企業が弱体化したか、派遣切りの次に来る「ホワイトカラー100万人の大リストラ」が意味するものは何か。著者の分析には、会社員であれば「そうそう、その通り」「そういえば、そうだ」と必ず納得できるはずです。
会社について持っているモヤモヤした感じが、すっきりとして頭の整理ができ、自然と「これから自分は何をすべきか」が見えてきます。タイトルだけだとヘタなホラーよりも怖いですし、実際に書かれている内容はかなり刺激的なのですが、読後は実に爽やか、という珍しい本です。文系大卒者のみならず、全企業人必読の書です。