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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

スピード感ある新書

 かったるい。少々品の無い言い方で申し訳ありませんが、国会中継を見ていると、そういう感じがします。
 質問者や答弁者の問題ではありません。かったるさの根源は、情報量と時間の問題です。活字で読めば10分もかからない内容をその数倍の時間をかけて聞かなくてはならない。だからかったるく感じてしまうのです。
 他のメディアと比べて本が優れているところの一つが、このスピード感ではないか、と思います。音声メディア、映像メディアに比べて自分のスピードで処理することができるし、多くの場合、実はそのほうが短い時間で済む。
 11月新刊の『日本辺境論』(内田樹・著)の魅力の一つもスピード感です。「日本とは何か」「日本人とは何ものか」という壮大なテーマに正面から挑んだ、著者渾身の日本論。というとえらく難しそうに思われそうですが、とんでもない。
 この原稿を担当者に「読め」と渡されたのがもう退社しようかという時間でした。少し読んでから帰ろうかと思ったのに、読み始めたら止まらない。結局、最後まで机で読むことになってしまいました。
 テーマはシリアスですし、相当に知的な議論が繰り広げられているにもかかわらず、ぐいぐい読める。読み終えたあと、明らかに頭がヴァージョンアップしたような気持ちになる。もしくは目の前の曇りが取れる。そういう本です。
 この本の推薦コメントを養老孟司さんに取材した際の締めの言葉は「とにかく読め、うるせえ読め。これが結論です」でした。

 今月の他の3点についてもご紹介します。
『グルメの嘘』(友里征耶・著)は、タイトル通り、世にはびこる偽グルメ情報、評論家を怒濤の勢いでなぎ倒す快著。
『60歳からの青春18きっぷ』(芦原伸・著)は、大人のための青春18きっぷ活用法。読むだけで楽しく、実用すればさらに楽しい一冊。
『「メール好感度」を格段に上げる技術』(神舘和典・著)は、実用的であると同時に笑えたり、背筋が凍ったりするメール入門。気づかないうちに送ってしまっている「恥ずかしいメール」「失礼メール」がある人は後者の反応になるはずです。そういえばメールの書き方って正式に習ったことがないな、という人は必読です。
 さらに今回は、12月新刊(17日発売)とは別に、特別に一冊、12月1日発売の新刊があります。
『人間の器量』(福田和也・著)です。なぜ日本人は小粒になったのか。器を大きくするにはどうすればいいか。先達の人生から様々な教訓を抽出しています。
 この本も重厚なテーマを扱いながら、絶妙の筆致ゆえにすいすい読めます。深さと速さが同居した稀有な本で、これもまたスピードの快感を味わえること必至です。ちなみにこの本を読んで、いろいろと反省した私は、会議でキレる回数が少し減りました(対前月比)。
 政治家を見て「近頃は小粒なのが多いなあ」と思う方にもお勧めします。

2009/11