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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

フリーの問題について

『FREE 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』という本が評判になり、雑誌でも「これからはフリーがビジネスのキーワードだ」といった特集が組まれたりしていました。理屈はわかるものの、それをどうやって自分たちの仕事と結びつけるか、というとなかなかいいアイデアが浮かびません。
 そもそも本は本屋に行けばタダで立ち読みでき、根性があれば全部読み通すことも可能。これ以上タダと言われてもなあ、と思いながら会社に向かっていると、山手線のホームで行列が。何かと思えば、缶コーヒーの新製品を無料で配っていました。もちろん私もありがたくいただきました。
 帰宅後、「タダで缶コーヒー貰えてラッキーだったよ」と言うと、「で、それどこのコーヒー」と聞かれました。ここで私は答えに詰まってしまいました。そういえば、どこのコーヒーだっけ? 全然記憶にありません。
 タダの良くないところは、愛着が持ちづらいことなのかなあ、と思いました。申し訳ないのだけれども、招待してもらったライブよりも、徹夜で入手したチケットで見たそれのほうが愛着がわきます。古いと言われるかもしれませんが、何かを入手するときに至るまでの過程もまたその「何か」の価値に含まれているような気がしてしまうのです。とはいえ、今後もこの「フリー化」問題は考えていかないといけないのだろうなあとは思います。
 4月新刊『ヤフートピックスを狙え―史上最強メディアの活用法―』(菅野夕霧・著)は、このへんのことと関係があるビジネス書です。ヤフーのトップページは、一日15億ビュー。過去、日本に存在しなかった巨大メディアです。そのトップページのトピックス欄は情報掲載料を徴収していませんが、凄まじい影響力を持っています。
 ここにPRしたい情報をニュースとして提供できれば、その効果は計り知れません。では、どうすれば、それが実現できるか。実際にネットニュースの作成をしている著者が、数々の成功例をもとに、史上最強メディアの攻略法を惜しげもなく公開した一冊です。

 4月は創刊7周年なので通常よりも刊行点数が多くなります。他の5冊をご紹介いたします。
『女は男の指を見る』(竹内久美子・著)は、動物行動学で「魅力」「相性」「色気」の正体を明かした刺激的な内容。「初対面で、女は男の顔よりも指を見ている」「ハゲは病気に強い」等々、あっと驚く事実が次々と飛び出します。
『中国共産党を作った13人』(譚ろ美・著)は、中国の近代史を生き生きと描いた歴史ノンフィクション。中国共産党創設メンバーのうち、4人が日本留学生だったというあたりは、現在の中国が隠したいことでしょう。
『日韓がタブーにする半島の歴史』(室谷克実・著)は、韓国、北朝鮮が隠したい古代史の話。丹念に朝鮮の古代史を読むと「文明は半島から伝わった」のではなく、むしろ逆だというのが著者のたどり着いた結論です。
『これが「教養」だ』(清水真木・著)は、まさに教養新書にふさわしい内容。「教養」とは何か、この大きな謎をまるで探偵のような手法で著者が解いていく、スリリングな知的興奮の書です。
『ツキの波』(竹内一郎・著)は、『人は見た目が9割』著者が読み解く「運の法則」。誰よりも深く「ツキ」について考えた作家、阿佐田哲也の思想をもとに、現代人に「生きるスタンス」を教えてくれます。

 以上、書店や新潮社HPで立ち読みも可能ですので、ご覧になっていただければと思います。
 最後に、いただいた義理もあるので付け加えると、あの缶コーヒーはUCCの「ザ・クリア」でした。無糖だけれどもミルク入り、無香料無着色という逸品で大変美味しく飲みました(これは本当です)。タダばかりでは悪いので今度は買おうと思いました。

2010/04