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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

テレビにブツブツ言う

 バラエティ番組などを評して「電波のムダ」などと言う人がいますが、私はそう思いません(お笑い好きなので)。しかしテレビを見て、うーむと思うことはよくあります。特にニュースや情報番組。思いつくままに並べてみます。
●映像が衝撃的というだけで、ほとんど日本と関係ない事件をトップ扱いするニュース(←こういうのは「びっくり映像」等の番組でやればいい)
●若い女性タレントがウエディングドレス姿を披露したときの不毛な会話(←そいつが「いい恋」をしてようがしてまいが、着る予定があろうが無かろうが知ったことではない)
●「激安極旨グルメ」の類の話(←激安で旨いものは、滅多にない。あったらメシ屋は苦労しない)
●キャスターが応援する野球チームについてあれこれはしゃいで語る様(←さっきまで悲惨な事件を沈痛な面持ちで伝えていたのに。本当に同じ人間なのか)
●「自民党と民主党の政策の差が見えない」といった、もっともらしいコメント(←それを調べるのが、そっちの仕事だろう、と突っ込みたくなる)
 きっと「そんなブツブツ言いながらテレビを見ても仕方ないでしょう」と呆れられたと思います。その通りで、だから私はあまりテレビの情報番組やニュースを見なくなりました。「めちゃイケ」を見て笑っているほうが精神衛生によいと本気で思うのです。
 8月新刊『テレビの大罪』(和田秀樹・著)は、こういう偏屈爺の愚痴みたいなものとは違って、精神科医であり教育者でもある著者による、本格的なテレビ批判です。現在のテレビがどれだけ人々の心身を蝕み、社会に悪影響を与えているかがよくわかります。日本のテレビ局はWHOが定めた自殺報道のルールをまったく守っておらず、それが自殺を増やしているのでは、といった指摘にははっとさせられました。

 他の4点もご紹介します。
『大女優物語―オードリー、マリリン、リズ―』(中川右介・著)は、ハリウッド黄金時代を代表する三大女優の運命を生き生きと描いた一冊。「『ティファニーで朝食を』はマリリン・モンロー主演になる可能性があった」等、意外なエピソードが詰まっています。
『難治がんと闘う―大阪府立成人病センターの五十年―』(足立倫行・著)は、がん治療の最前線について、ノンフィクションの第一人者が専門医に徹底的に取材したインタビュー集。診察室では気後れしてなかなか聞けないことまで根掘り葉掘り聞いています。
『もののけの正体―怪談はこうして生まれた―』(原田実・著)は、妖怪、もののけといった架空の生き物をなぜ昔の人たちは必要としたのか、いかにして生み出されたのかについての考察。鬼、天狗から豆腐小僧やコロボックルといった「登場人物」の名前を見るだけでも楽しくなります。
『通販―「不況知らず」の業界研究―』(石光勝・柿尾正之・著)は、誕生以来、右肩上がりの成長を続けている稀有な産業「通信販売」のすべてがわかる一冊。といっても、「通販の開祖はベンジャミン・フランクリン」「テレビ通販で一番売れるのは深夜0時」等、トリビアが詰まっているので、こちらも楽しんで読める内容です。
 テレビに疲れた、飽きた、腹立った、という方はぜひ新書をお読みください。

2010/08