新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

新刊140字紹介

 少し前から編集部でツイッターを始めています(http://twitter.com/shincho_shinsho)。残念ながらそれがきっかけで大ベストセラーが誕生したこともまだないですし、幸運なことに大炎上もしていません。しかし、出たばかりの本について、いろんな人がそれぞれのツイッターに「良かった!」といった感想を書き込んでくださるのを見るのは単純に嬉しいものです。先月刊行した『ロックと共に年をとる』については、様々なタイプのロック好きがお褒めの言葉を書いてくださっていました。
 今月は、ツイッター方式で、新刊5点の中から印象的な言葉を140文字以内で引用して紹介してみます。

「(茶の湯とは)本来男性の、それも武士の嗜みごとであり、道具集めに身をやつして身代を持ち崩した方、天下人の勘気に触れて命を落とした方で、茶の湯の歴史は死屍累々です。ある意味危険な、だからこそ魅力的なものでもあります」――『茶―利休と今をつなぐ―』(千宗屋・著)より。
 千さんは武者小路千家の若宗匠。この本を読むと、茶の湯の歴史、魅力、「危険さ」、すべてがすっきりとわかります。茶を習っている人はもちろん、『へうげもの』などで興味を持った人にもお薦めです。
「インターネットの情報と、読書から得る知識とは本質的に違うのではないだろうか。その違いを比喩で表現したら、食物とサプリメントの関係になるのではないだろうか。(略)サプリメントは実に有効だ。しかしサプリメントをいくら工夫して与えても、それだけでは子供が育つわけはないだろう」――『知的余生の方法』(渡部昇一・著)より。
 ミリオンセラーとなった『知的生活の方法』(講談社現代新書)から34年。80歳を越えた碩学が提示する新しい発想と実践のすすめです。年をとっても頭を鍛えることが出来る、と勇気付けられること間違いなしです。
「あの『壊し屋』に関わるとほとほと疲れる――三度、小沢一郎と交えた私の率直な感想だ。人の陣地に手を入れて、誘惑してその気にさせて、壊す。あの性癖は、死ぬまで治らないのではないか。業というか、あそこまでいくと、もう病いとしか言いようがない」――『政治とカネ―海部俊樹回顧録―』(海部俊樹・著)より。
 第76、77代内閣総理大臣である海部さんの回顧録は、衝撃的なエピソードの連続。「隠し立てすることなくありのままの出来事を書く」と最初に宣言している通り、「ここまで書いていいのか」と読みながら興奮と驚きが止まらない「面白すぎる回顧録」です。今の総理大臣に何が足りないのかもよくわかります。
「(コンピューター付きブルドーザーと呼ばれた田中角栄氏は)確かに、陽気で頭の回転が特別に速くて、口癖の『まーそのー』の後に予算の金額や統計の単位といった数字が次から次へと出てくるんです。でも、それがけっこう間違ってるんですよ」――『速記者たちの国会秘録』(菊地正憲・著)より。
 同書はノンフィクション作家の菊地さんが、40人もの国会速記者から丹念に聞き取りをして執筆した労作。ほぼ全員がこれまで取材に応えたことがなかったので、初登場の貴重な証言ばかり。東京裁判、バカヤロウ解散、安保闘争等々、戦後の政治を速記者席という特等席で見つめ続けてきた職人たちが語る裏面史です。
「『脳科学者』と称することには、何の資格もいらない。脳に興味があり、本の一冊も読めば、あなたが自分を『脳科学者』と呼んでも全く問題ない。うちの嫁さんも、近所のじいさんばあさんも、皆『脳科学者』になれる」――『さらば脳ブーム』(川島隆太・著)より。
 川島さんは、世界的大ヒットとなった任天堂DS『脳を鍛える大人のDSトレーニング』の監修で知られる東北大学教授。全世界で3000万本以上のヒットを飛ばし、「脳ブーム」の中心にいた著者は、そこで何を考えたのか。科学と社会の関わりについて深く考えさせられる一冊です。

 いずれも140字では面白さの1万分の1も伝わりません。ぜひとも書店で手にとってご覧ください。

2010/11