新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

まさかの受賞

 ありがたいもので、これまでにもいろんな賞を新潮新書はいただいてきました。『バカの壁』『国家の品格』は流行語大賞、『日本辺境論』は新書大賞。変わったところでは『路面電車ルネッサンス』の交通図書賞というのもありました。
 しかしまさかレコード大賞をいただけるとは思ってもいませんでした。冗談ではなく、本当です。今年1月に刊行した『あの素晴しい曲をもう一度』(富澤一誠・著)がレコード大賞企画賞を受賞したのです。正確には、同書掲載の名曲リストをベースにした同名のコンピレーションCDが受賞したのですが、そのCDの企画者の中に「新潮新書」も入っていたというわけです。
 タナボタ、おこぼれ、便乗、様々な言葉が投げつけられそうな気もします。実際その通りで、基本的に著者でCDの監修者でもある富澤さんとCD会社の努力の賜物なのですが、新書史上初(たぶん)の快挙であると思うので素直に喜んでおります。

 レコード大賞といえば年末。というわけで、今年最後の新刊5点をご紹介します。
『日教組』(森口朗・著)は、そのタイトル通り、この組織の徹底研究。功罪、カネ、盛衰等々、この一冊を読めばすべてわかります。戦後教育(もしくは日本)をダメにした元凶と名指しされることが多い彼らの実態を鋭くえぐっています。冒頭の典型的日教組教員の一日の描写は、ちょっと怖くもあり、可笑しくもあります。
『電通とリクルート』(山本直人・著)は、情報産業の双頭である両社のビジネスモデルの変遷を追うことで、「わたしたち日本人の欲望はどのように作られ、どこに向かうのか」というテーマについて考えた一冊。単なる企業研究の本と思って読むと、いい意味で裏切られることになるでしょう。知的興奮に満ちた社会論で、『日本辺境論』が面白かったという人にもお薦めです。
『復活の力―絶望を栄光にかえたアスリート―』(長田渚左・著)は、スポーツノンフィクションの第一人者の手による感動のストーリー。選手生命を脅かすケガを、アスリートたちはどのように乗り越えたのか。その姿勢と語られる言葉の深さに感銘を受けること必至です。取り上げているアスリートは高橋大輔、村田兆治、池谷幸雄、佐藤真海、浜田剛史、中野浩一、安直樹、青木功の8人。
『大本営参謀は戦後何と戦ったのか』(有馬哲夫・著)は、新発見に満ちた昭和史。戦後、生き残ったエリート軍人たちが日本で何をしていたか。CIA文書には驚くべき内容が書かれていました。日本軍再建に奔走した者もいれば、吉田茂暗殺計画を企てていた者までいたのです。戦後史の見方が変わる一冊です。
 最後は『マネジメント信仰が会社を滅ぼす』(深田和範・著)。今年最大のベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』に真っ向から異を唱えたビジネス書です。マネージャーが本を読んだくらいでチームが勝つわけないだろ! というツッコミを入れたことのある人、会社の経営陣が社内の人事やシステムばかりいじっていることに違和感をおぼえたことがある人は強く共感する内容です。もちろん『もしドラ』に感銘を受けた人にもお薦めです。きっと目からウロコが落ちるはずです。

 少々気が早くて恐縮ですが、本年もお世話になりました。
 来年も年初から意表をつく面白い新書を出していきます。
 よろしくお願いします。

2010/12