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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

プロ中のプロが見せてくれるもの

 劇場公開中の映画「RED/レッド」を観てきました。「ダイ・ハード」シリーズのブルース・ウィリスら4人の超有名俳優・女優の競演と、きっとそれだけ激しくなるであろうアクション・シーンに心惹かれたからです。ただ観終わっての感想は、予想とはちょっと違うものでした。
 ブルース・ウィリス、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、そしてヘレン・ミレンは、今や穏やかな引退生活を送っている元スパイたち。ある日突然、CIAから狙われる立場に陥って再集結し、かつての特技と大型武器を持ち出して大暴れします。ただ、俳優たちが年齢相応の役を演じている設定なので、4人の振る舞いがいつもより控えめです。ブルース・ウィリスは一瞬でカアッと広がるような笑顔の代わりに、伏し目がちにじんわりと浮かべる優しい笑み。「クィーン」で孤高のエリザベス女王を演じアカデミー賞主演女優賞に輝いた英国女優ヘレン・ミレンは、おちゃめさを披露してくれました。もちろん演技と分かっていても、ここにきてまだ我々の知らない「素顔」を見せる幅の広さに驚かされたのが正直な気持ちでした。

 今月の新刊も、よく知られたテーマの中の意外な事実を浮き彫りにする粒ぞろいの4冊です。『エコ論争の真贋』(藤倉良・著)は、ブームも手伝って議論百出している環境問題やゴミのリサイクルの是非について、フェアな視点から紹介・解説します。論点はいったいどこなのか、エコで混乱したら読む本です。
『葬式をしない寺―大阪・應典院の挑戦―』(秋田光彦・著)は、「檀家ゼロ、葬式・法事は一切しない」という革命的なコンセプトを打ち出した住職自身が、その軌跡を活き活きと綴りました。お寺の持つ本来の力と信頼を取り戻す試みは、今この時も進行中です。
『幕末バトル・ロワイヤル 慶喜の捨て身』(野口武彦・著)は大人気シリーズ第4作、舞台は混乱の度合いを増す幕末の最終局面の4年間。刊行を楽しみにして下さっている読者の方に加え、大河ドラマなどでこの時期に興味を持たれた方にもお勧めします。
 最後に、『アフリカ―資本主義最後のフロンティア―』(「NHKスペシャル」取材班・著)。大反響を呼んだNHKスペシャル「アフリカンドリーム」の取材チームが、一変した大陸の姿に迫りました。「大虐殺の地」ルワンダは「アフリカのシンガポール」を目標に急成長し、南アフリカは「格差」を経済成長のドライブに変える。長期にわたる取材と鮮やかな筆致で、中国・インドに続く世界経済の新たな成長センターの勢いを体感できます。
 いずれも力のある書き手が描き出す内容から、きっといい映画を見た後と同じ満足感を得て頂けるはずです。(都合により今回は編集部員の代筆です)

2011/02