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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

中村とうようさんのこと

 昨今、K-POPはカッコいいとかオシャレとかカワイイとかそういう扱いになっているようです。しかし私が若い頃、韓国の音楽といえばチョー・ヨンピルの「釜山港へ帰れ」あたりが代表格という感じで、決して若者が喜んで聞くものではありませんでした。
 そんな頃から、韓国やインド、南米、アフリカ等、あまり日本ではポピュラーではない音楽を積極的に紹介していたのが、『ニューミュージック・マガジン』(現『ミュージック・マガジン』)でした。欧米のロックしか興味がなかった私に、「いやいや他にもいいものがあるよ」と教えてくれた雑誌です。それでも小遣いには限度があるので、やはりロックのレコードばかり買っていたのですが、たまに勧められている民族音楽のレコードを買って「なるほどこれはすごい」と感心したこともありました。
 先月、その創刊者であり編集長だった中村とうようさんが亡くなりました。おそらくこの方がいなければ、今のように日本で「ワールドミュージック」が幅広く聞かれることはなかっただろうと思います。先日会った欧米の音楽関係者は「日本くらいあらゆるジャンルの音楽が入手できる国はない」と言っていました。中村さんはそういう土壌を作った功労者なのです。何の面識もない私に言われても困るでしょうが、ずいぶんお世話になったと勝手に思っています。
 普段仕事をしていると、編集という仕事にどの程度の意味があるのだろうかと思うこともあるのですが、中村さんの功績を考えると、いろいろな影響を世の中に与えることができるのだなあと思います。もちろん影響というのは良いものばかりではないのでしょうが。

 8月の新刊4点をご紹介します。
『ウイスキーは日本の酒である』(輿水精一・著)は、サントリーでチーフ・ブレンダーをつとめる著者が、ウイスキーに関する知識を惜しげもなく披露した一冊。輿水さんは、以前、NHKの「プロフェッショナル」にも出演していたからご存知の方も多いことでしょう。シングルモルト「山崎1984」等、輿水さんが手がけたウイスキーは世界一の評価を受けています。「シングルモルトってよく聞くけど何?」というような人も是非読んで薀蓄を仕入れて下さい。いつかどこかで自慢できるでしょう。
『婚活したらすごかった』(石神賢介・著)は、40代バツイチの男性ライターによる婚活の体験ルポ。ネットの婚活サイトやお見合いパーティで出会った女性と繰り広げるあんなことやこんなことの数々には、メルマガでは少々書きづらいようなシーンも多々含まれる、抱腹絶倒、前代未聞のルポとなっています。真面目に婚活を考える人には、「超実用的婚活マニュアル」も付いていてお得な一冊です。
『中国のジレンマ 日米のリスク』(市川眞一・著)は、気鋭のストラテジストが見通した「これから5年間の世界経済の動向」。とかく中国についての分析には、イデオロギーが含まれてしまい「反中国」「嫌中国」になりがちですが、あくまでもデータに基づいたクールな分析がなされています。「中国は1970年代の日本である」という指摘にはハッとさせられました。
『公安は誰をマークしているか』(大島真生・著)は、産経新聞記者が「警視庁最強部隊」のすべてを解き明かした一冊。「公安が動いている」といった台詞はよくドラマ等で耳にするものの、実際に何をしているのかは私たちには見えません。本書では各セクション毎の事件簿や活動内容を詳細に記しています。新潮社の近所で起きたテロ事件についても触れてあり、貴重な写真も掲載されております。

 いずれも読んだ方に良い影響や刺激を与えることができる本ではないかと思っています。

2011/08