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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

島田紳助さんのこと、野田佳彦新総理のこと

 このところのニュースの主役だったのは島田紳助さんと野田佳彦さんの二人でしょうか。この二人、いずれも至近距離で見たことがあります。
 といっても紳助さんのほうは、本当にチラリと見たという程度。週刊誌記者をやっている頃、別のベテラン芸人の取材で楽屋を訪ねると、そこに彼の旧友である紳助さんもいたのです。そのベテラン芸人はテレビのイメージそのままに早口で喋り、サービス精神旺盛。着替えの最中、パンツ姿を撮影しても文句も言わず喋り続けるという風でした(結局、その着替えているところの写真を使った)。
 一方で紳助さんはずっと黙っていて、こちらに目もくれない。挨拶しても無反応。ちょっと暗い感じの人だなと思ったのを憶えています。週刊誌の記者にいきなり愛想よくする必要はないので無理もないのですが。
 新しく総理大臣になった野田佳彦さんとはもう少しまともな接点がありました。2年前、新潮新書から『民主の敵』という本を刊行する際に何度もお目にかかったからです。野田さんは今テレビに出ているままの方でした。じっくりと伝わるように話をする。ときおり絶妙のたとえを繰り出す。『民主の敵』の中でもっとも秀逸なたとえは小沢一郎氏が民主党に入ってきたときのことを「モーニング娘。に天童よしみが加入したような感じ」と表現した箇所ではないかと思います。
 まだ政権交代前で野田さんもヒラの議員。本が完成しての打ち上げは議員会館の部屋で缶ビールやサキイカで地味に行われました。それが何となくご本人の持ち味ともマッチしていて、これはこれでいいものだなあと思ったものです。
 総理就任後、『民主の敵』は注文が殺到した結果、増刷することになりました。
 また、紳助さんの一件後、注文が急増したのが9月新刊の『暴力団』(溝口敦・著)です。同書は、この分野の第一人者の溝口さんが、暴力団のイロハについてひたすらわかりやすく解説してくれるという内容。まったくの偶然なのですが、世間の関心が高まっているときに刊行することになりました。収入源は? 出世の条件は? 芸能界との関係は? 警察とは癒着している? 等々、あらゆる疑問に答えてくれています。

 9月新刊、ほかの3点もご紹介します。
『文明の災禍』(内山節・著)は、哲学者が大きな視点で捉えた「ポスト3.11」の決定的論考。原発事故以降、新しい局面に入った時代をどう考え、どう生きていくべきか。平易な言葉で極めて深い思考が繰り広げられます。原発を巡る賛否様々な言説に何となく馴染めず、もやもやしていた私はこの本で目の前の霧が晴れたような気持ちになりました。
『人口激減―移民は日本に必要である―』(毛受敏浩・著)は、震災以降議論が減ったけれども実は日本の抱える最大の問題の一つ、人口減少への解決策を提示した一冊。「移民は危ない、怖い」と反発せずに読んでいただきたいと思います。
『日本人の美風』(出久根達郎・著)は、心洗われる読後感を保証できる日本人論。震災直後に世界から賞賛された国民性。その原型はどこにあるのか。過去にどんな人たちがいたのか。直木賞作家である著者がひもとく歴史秘話には、誰もが胸を打たれることでしょう。涙腺その他様々な感情を刺激します。
 9月の新刊4点並びに新総理の唯一の単著、興味を持たれたものを一冊でも手にとってみていただければ幸いです。

2011/09