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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

異常に若い見た目のこと

 小学校高学年の一時期、同級生の一部に「おじいさん」と呼ばれていたことがありました。いじめというよりは、からかいの一種なのですが、気分のいいものではありません。しかし今から思えば仕方がない気もします。
 見た目がどうこうということよりも、物言いや趣味が老けこんでいたのです。ちょっと背伸びした映画や音楽や本を好んでいました。「ゴッドファーザー・パートII」を友達と封切で見に行った記憶があるのですが、今調べると当時、8歳か9歳です。さすがにちゃんと理解できていなかった気がします。字幕も全部読めていたか怪しい。漫画「天才 柳沢教授の生活」に出てくる、幼稚園児のくせに無理しておじいちゃんの経済書(の平仮名部分だけ)を読む華子ちゃんみたいなものです。
 私のおじいさん期はごく短かったものの、その後ももしかすると自分は老けているのだろうかということは少し気になっていました。ある程度年をとっていき、今度は若く見られることも増えて、ほっとしたものです。
 そんな経験があるせいか、メディアに登場する「見た目よりも異常に若く見える」ことを売りにしている人には、無駄に敵愾心を持っていました。すごいなあというよりは気持ち悪いと思ってしまうのです。ああいう人は、エマニュエル坊やにも憧れているのでしょうか。

 3月新刊の『人間の基本』(曽野綾子・著)の「はじめに」では「見た目年齢」という話題が取り上げられています。曽野さんは、「見た目年齢」を若くすることに狂奔して、本も読まず、美容やおしゃれだけ心がけていると、足場のない人間がふえて来そうな気がします、と述べていらっしゃいます。この本には、人として生きていくうえでの足場、つまり「基本」が書かれています。膝を打ったり、己を省みたりしながら読むうちに、身が引き締まっていくような感じがしました。

 他の新刊3点もご紹介します。
『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル―』(春日太一・著)は、戦後の日本映画を代表する二社の興亡記。タイトルの由来は「仁義なき戦い」と「日本沈没」という共に1973年公開の話題作。この激突に至るまでの経緯、紆余曲折、波乱万丈は使い古された言い方ですが、映画よりもドラマチックです。なぜあの頃の日本映画には異常な熱があり、それがどんどん失われていったのかもわかります。
『恐怖の環境テロリスト』(佐々木正明・著)は、シー・シェパード、グリーンピース等、過激な環境保護団体の知られざる恐怖を描いたノンフィクション。時々ボートで捕鯨船を攻撃するだけの単なるおかしな人ではなく、欧米ではすでに「エコテロリスト」はFBI等の監視対象にもなっていて、社会への脅威として捉えられていることがわかります。動物実験妨害のために、企業人への襲撃や放火までしているというのですから、立派な犯罪者集団なのです。
『震災復興 欺瞞の構図』(原田泰・著)は、エコノミストが「復興計画のウソ」を暴いた一冊。復興計画に異を唱えると、「邪魔するな」と怒られそうですが、本書を読めば必ず納得していただけます。いま、霞が関は何でもかんでも「復興」に絡めて予算を計上するという、一種の「祭り」状態。もちろん、それは被災者のための復興にはつながりません。何兆円もの税金が無駄にされないために、国民必読の書です。

2012/03