新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

情報量の話

 年末年始にはテレビで好きなお笑い番組が増えるので、昔は嬉しかったのですが、最近はそうでもなくなりました。別にお笑いが嫌いになったわけではありません。どうもこの時期の豪華な番組は、その豪華さゆえに無駄な情報が多くて、結果として、「かったるいなあ」と感じるものが多いのです。
 普段楽しんで見ているレギュラー番組は、限られた時間の中にできるだけ多くの笑いを凝縮するように工夫されています。ところが特番の場合、余計な要素が増えるので、結果として情報量が減ってしまうものが多い気がします。
 お笑い番組に限らず、ニュースでも、本当にテレビの情報量は多いのだろうか、と思うことが増えました。活字ならば30秒程度で読める情報を、何分もかけて伝えているように感じることが多いのです。
 テレビ離れの理由についてはいろいろ分析されていますが、この効率の悪さも理由の一つなのでは、と思っています。
 もっとも、じゃあ活字メディアはそんなに多くに支持されているのかといえば、そんなことはまったく無いわけで、厳しい状況にあるのはここで言うまでもありません。
 
 1月新刊『なぜアマゾンは1円で本が売れるのか―ネット時代のメディア戦争―』(武田徹・著)は、現在のメディアの状況を俯瞰するのに最適の1冊です。この分野の本では、わりと書き手の願望や立ち位置が内容に反映するものが多いのですが、本書では印刷会社やネット企業等への取材をベースにした「コンテンツとメディアの攻防戦の記録」となっています。

 他の新刊3点もご紹介します。

中国人観光客の財布を開く80の方法』(岡部佳子・著)は、「ポスト爆買い」時代のビジネスを考える上で必携の書。空港で暴れる人たちを見て、「もう嫌だ」と感じた方も多いかとは思いますが、これからも訪日する中国人が多くいる以上、彼らと上手くつきあう知恵が私たちには求められています。中国人客に接する仕事をしている人には具体的なアイディアが沢山書かれていますし、現代中国人論としても読めます。

キレイゴトぬきの就活論』(石渡嶺司・著)は、1月から本格化する就活に向けての1冊です。学歴はどのくらい重要か。「夢」は持つべきか否か。本質的な議論に加えて、「優良企業300社」リストも付いたお得な内容です。

ADHDでよかった』(立入勝義・著)は、小さなころからADHDでなかなか大変な思いをしてきた著者の半生記。著者の場合、アメリカに渡り、薬物療法を試したことで人生が劇的に改善されたことが大きかったようです。有名なIT起業家等、ある種の天才はADHDであると見られています。悩める親御さんにもお勧めします。

 いずれもテレビ化したら、スペシャル番組枠でも収まらない、相当な情報量が詰まっています。

 今年も新潮新書をよろしくお願い申し上げます。
2017/01