新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

トンデモの話

 トランプ大統領の「差別的」な言動や政策への抗議運動をニュースで見ながら、へえ、そんなにこれまであの国は差別的じゃなかったんだっけ、などと思ってしまうのは、 「週刊新潮」巻末の高山正之先生のコラムを読みすぎたからかもしれません。
 最近読んだ『「トランプ時代」の新世界秩序』(三浦瑠麗・著、潮新書)の中に、面白い話がありました。 一時期、ヒラリー・クリントン氏を脅かす存在だったバーニー・サンダース氏には、トランプ大統領以上の「トンデモ発言」がいくつもあったというのです。
 たとえば、「女性は三人の男性にレイプされる夢想を抱きがち」という発言。  日本で立場のある政治家が言ったら、一発でクビになりそうです。そういう人もまた大統領の有力候補者でした。
 アメリカはいろんなことのお手本のように言われてきたけれども、どうなんだろう、と思う機会が増えてきた気がします。

 2月の新刊、『国家の矛盾』は、三浦瑠麗氏と高村正彦・自民党副総裁の対談です。自民党きっての外交・安全保障政策通で、理論派である高村氏と、いま最注目の国際政治学者である三浦氏が、徹底的にロジカルに議論しあっています。
 トンデモ発言はありませんが、三浦氏が高村氏からかなりディープな情報を聞き出しているあたりも読みどころです。安保法制を巡る議論(騒動?)に、違和感を抱いた方には特にお勧めいたします。

 他の新刊3点もご紹介します。

フィリピンパブ嬢の社会学』(中島弘象・著)は、前代未聞の新書と言っても過言ではありません。社会学を学ぶ大学院生だった著者は、論文のテーマに地元のフィリピンパブを選びました。ところが、初めて行った店で出会ったパブ嬢と恋におちてしまいます。
 指導教官も家族も心配して、大反対ですが、2人の交際は進みます。結果として、著者はフィリピンパブの仕組み、フィリピン人の思考を体で学ぶことになっていくのです。
 最後にどうなるかはお楽しみ、ですが、読後感はとても良いはずです。

文系のための理数センス養成講座』(竹内薫・著)は、タイトル通り、特に文系の方で理系に苦手意識のある方にお勧めの入門書。文系の人と理系の人の思考法はどこが違うのか、といった根本的なところから解き明かしてくれます。「あの人と話がかみ合わないのはそういうことか」と思い至るかもしれません。

損する結婚 儲かる離婚』(藤沢数希・著)は、これから結婚を考えている人、真面目に離婚を考えている人、離婚を夢見ている人、覗き見的興味を持つ人、どんな人が読んでも、目からウロコが落ちること間違いなしの1冊。よく耳にする「慰謝料」という言葉自体を私たちはきちんと理解できていないことがわかります。
 紹介されている実例は、まさにホラー以上の恐ろしさ。芸能ニュースなどの見方も変わるでしょう。個人の危機管理上、知っておくべき情報満載です。

 以上4点、トンデモではなく、トテモ面白いラインナップです。
 今月も新潮新書をよろしくお願い申し上げます。
2017/02