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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

リモートワークの話

 新型コロナの影響でイライラしたり、不安定になったりする人が増えたとよく言われます。私もその一人でしょうか。先日、コロナ報道で一躍注目を集めることになった、ワイドショーの社員コメンテイターのこんな発言にムカッとしてしまいました。
「日本の会社員のほとんどは、会社に行くこと自体が仕事になっているんですよ」
 そういうムダなことはやめてどんどんリモートを徹底させればいいじゃないか、そうすれば感染リスクはもっと下がる、と言いたいのだろうと思います。おそらくこの人の頭の中にある会社員というのは、ムダな書類にハンコを押し続け、報告書を書き続けるような仕事をしている人たちということなのでしょう。たぶんマスオさんみたいな感じ。
 正直に言えばそういう面もないわけではないのですが、しかし多くの人は必然性があるから職場や現場に向かっています。家で画面に向かってしゃべれば終わり、という仕事ばかりではありません。
 新潮新書の6月新刊は3点です。通常は4点で、その原則は2003年以来ずっと守ってきました。たまに繰り上げ発売のものがあると、翌月は3点になるのですが、2カ月で8点ということで、「1カ月4点」を維持してきたのです。
 しかし、6月と7月は初めて3点にせざるをえませんでした。複雑な要因がからみあっているのですが、簡単にいえば新型コロナのせいです。
 誰が悪いのでもありません。サボったわけでもありません。また、営業がままならない業種が多い中では、4点が3点になる程度の影響ならばありがたいと思っています。そして、そのくらいの影響で済み、また無事に印刷され、配本され、売られるようになっているのは、社内外の数多くの関係者の方々の尽力によるものです。
 なるべく業務に支障をきたさないようにと工夫、努力をしている人たちによって世の中は回っている。普段以上にそういうことを感じています。
 それだけに、「会社員」を大雑把にまるめて小馬鹿にしたようなコメントには腹が立ったのでした。

 6月の新刊3点をご紹介します。
令和の巨人軍』(中溝康隆・著)は、「プロ野球死亡遊戯」という人気ブログの書き手で、野球談議をさせたら当代一の書き手による「いまの巨人軍の楽しみ方」。野球ファンは往々にして自分の若かった頃こそ面白かった、と言いがちですが、著者はそこに異を唱えます。いや、いまの巨人はものすごく面白いのだ、と。実際に読み進めていくと、本当にそんな気がしてくるから不思議です。新書編集部周辺には、アンチ巨人も多いのですが、そういう人たちも「面白かった」と口を揃えて絶賛していました。結局野球ファンは野球の話が好きなのです。

ヤバい選挙』(宮澤暁・著)は、「選挙マニア」が発掘した驚愕のエピソードが詰まった珍しい1冊。世の中には、各地の選挙の「変わった」候補者や結果について常にアンテナを張り巡らせているマニアがいるのだそうで、著者もその一人です。さすがにマニアが厳選しただけあって、紹介されるエピソードはどれも想像をはるかに超えるものばかり。「死者が立候補した都知事選」なんて、本格ミステリーのタイトルみたいですが、実際にあった話です。どういうことか興味を持った方はぜひ開いてみてください。

人間の義務』(曽野綾子・著)は、いまだから考えたい人生の本質を説いた1冊。
「人生は『数年なら我慢』できることが多い」
「『運命』は、最終的に人を差別しない」
「人生は『何がよかったか』わからない」
「生きている限りは『折り目正しく』」
 心にしみる箴言が並んでいます。

 いろいろな方がかかわってくださるおかげで新刊を出し続けることができています。
 今月も新潮新書をよろしくお願いします。
2020/06