新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

携帯CMの話

 明らかに年を取ってきたと思うのは、テレビなどで過剰に賑やかな番組やCMを見ると、妙にイライラする傾向が強まっていることです。特に苦手なのは携帯電話のCMで、なんだかよくわからないけれども、やたらと歌い踊り浮かれているようなトーンのものや、一応笑いを誘うつもりのつくりのものなど。
 そもそもおじさんになると、携帯に電話がわざわざかかってくる時は、何か悪いことやトラブルが起きた時のことが多いのです。浮かれられません。「まだ揉めているのか」とか「また誰か死んだのか」などと反射的に思ってしまいます。
 あんなに携帯持って踊っていられるのは、恋愛中の若者あたりでしょうか。
 そんなわけで、携帯電話に望むのは通信料金を下げてほしい、という程度です。私が少数派というわけではなくて、編集部内でも大体そんな感じでした。
 7月新刊『スマホ料金はなぜ高いのか』(山田明・著)を読むと、日本の通信料金のカラクリがよくわかります。どうもやはり世界的に見ても高く、最大の理由は寡占状態にあるようです。少し前に官房長官が「4割値下げ」と言ったにもかかわらず、実現しないのもそのあたりに原因があるとのこと。
 しかし、新型コロナの影響で家庭の通信費が増す傾向にあるのだから何とかしてほしい、というのは多くの人の切実な願いでしょう。少なくともあんなにCMで「お得なプラン」「多彩なプラン」を宣伝する費用があるのなら、こっちに還元してほしいと思うのはセコいのでしょうか。

 他の新刊2点をご紹介します。
日本人はなぜ自虐的になったのか―占領とWGIP―』(有馬哲夫・著)は、戦後GHQが日本で行った心理戦に関する決定版的な内容。なぜわざわざ「決定版」というかといえば、この心理戦、WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)については、評価が真っ二つで、「日本人の心理に多大な影響を与えた」という論者と「そんなの陰謀論」という論者が存在するのです。
 公文書研究の第一人者である著者は、様々な一次資料をもとに占領軍のやってきたことを示していきます。結論はタイトルにある通り。やはり日本人に多大な影響を与えた、というものです。たとえば、多くの日本メディアは広島、長崎への原爆投下について振り返る際に、不思議なほど「米軍による大量殺戮」という視点を持とうとしません。「だまし討ち」と非難されることが多い真珠湾攻撃と比べて、ケタ違いに多くの市民が殺害されたにもかかわらず、です。これは日本人の国民性もあるのでしょうが、占領軍がそういう考えを日本人が持たないようにしたからです。
 本当にそんなことができるのか。そう疑う方にこそ読んでいただきたい説得力があります。

トヨタに学ぶ カイゼンのヒント71』(野地秩嘉・著)は、新型コロナをきっかけに職場のムダを一掃したい、という気持ちを持つ方にお薦めの1冊。よく「リモート会議が増えた」「リモートで十分じゃん」といった声は聞きますが、「いやそもそもその会議、やる必要あるの?」と問いかけてみる。そんなところからカイゼンを始めてみよう、ということです。なるほどこういう発想でどんどん職場、仕事をより良くしているのか、と気持ちが前向きになってきます。ちなみに新潮社でも、この数カ月でずいぶん会議のリストラが進みました。これは良い変化だと感じています。

 今月も新刊は3点。来月からは4点の通常運転に戻る予定です。

 7月も新潮新書をよろしくお願いいたします。
2020/07