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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

「育ちがいい人」の話

 電車の中で最近よく広告を見かける書籍に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(諏内えみ・ダイヤモンド社)があります。何となくそれを眺めているうちに、何と良いタイトルだろう、と感心する気持ちがどんどん強くなってしまいました(皮肉ではありません)。
 感心のポイントは二つ。まず「育ちがいい人」という言葉を選んだセンスです。この言葉、日常では結構見聞きするのですが、書籍などのタイトルではほとんど見たことがありません。アマゾンで調べても「感じのいい人」は出てきたものの、「育ちがいい人」は出てきませんでした。誰もが知っている言葉なのに、タイトルとして使うのは新鮮、というのは良いのです。
 もう一つが「だけが知っていること」の部分に感じられる配慮あるいは計算。「育ち」を問題にするのは、結構危ない面があります。下手をすると差別につながりかねません。仮に『「育ちがいい人」を目指そう』にすると、「育ちが悪くて悪うございましたね」と反発を招きかねません。しかし「だけが知っていること」ならばギリギリの線でオーケーではないでしょうか。それでも嫌だという方はいるでしょうが、そのくらいの毒、刺激はあったほうが良いように思います。
 こんなわけで最近もっとも感心し、悔しく思ったタイトルでした。

 8月の新刊4点のタイトルと中身をご紹介します。
自衛隊は市街戦を戦えるか』(二見龍・著)は、元自衛隊幹部が率直に組織の実情を明かした1冊。原野で戦車が火を噴く演習はよく報道されます。しかし、考えてみれば原野に攻めて来る敵はまず存在しません。おそらく狙うのは都市部やインフラのはず。それに自衛隊が対応できるのかという問題を提起しています。自衛隊に抱く好感とは別に、ちょっと不安になってくるかもしれません。

恥ずかしい人たち』(中川淳一郎・著)は、ネットニュース編集者として、コラムニストとして独自のポジションを築いてきた著者による「壮絶にダメな大人」図鑑。具体的には「態度がエラそうすぎるオッサン」「言い訳する能力すらない政治家」「勝手な"義憤"に駆られておかしなことを言う人たち」等々。

国家の怠慢』(高橋洋一原英史・著)は、元官僚のお二人が日本の抱える問題の根本と打開策を語り合った対談。この数カ月の間に「なんでこんなにお粗末なのか?」と感じたことがある方はぜひお読み下さい。

番号は謎』(佐藤健太郎・著)は、番号の魅力に取り憑かれた著者が、その知識、ウンチクのすべてを詰め込んだ世にも稀な「番号本」。郵便番号、電話番号、自動車のナンバー等お馴染みのものはどう決まるのか。交響曲マイナス1番とは? 上野駅の13・5番線ホームとは? まさに面白くてためになる本です。

 同業者の誰かが、これらのタイトルに感心してくれれば、と思います。
 別にそうならなくても読者の方が手に取りたくなることを祈ります。

 今月も新潮新書をよろしくお願いいたします。
2020/08