新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

バブルの話

 大人気の半沢直樹さんが銀行に入ったのはバブル期だとされています。このバブル期をテレビなどが扱う場合は、イメージ映像としてお札が宙に舞っていたり、扇子を持ってボディコンの女性が踊っていたり、という感じの映像が挿入されます。多分どこかでお金は舞っていて、ボディコンは浮かれていたのでしょうが、当時を知る者としては違和感もあります。少なくとも私は扇子にボディコンの人を生で見た記憶がありません。
 たしかに景気は良かったのでしょうが、そんなに誰もが浮かれていた感じもしませんでした。
 後で振り返るとどうしてもかいつまんだ話になるので、お札&ボディコンみたいなことになるのは仕方がないことです。
 お札&ボディコンは見た感じが面白いからいいのですが、要約された歴史はともすれば面白みがなくなって、無味乾燥になりがちです。『絶対に挫折しない日本史』(古市憲寿・著)で著者は、そのあたりが日本史や世界史を学ぶ際のネックになっているのでは、と指摘しています。
 何年に何が起きた、誰がどうした、という話はとても大切だけれども、もっと流れを重視したほうが歴史をつかみやすいのでは、ということです。
 実際にこの本は極端に年号や固有名詞を少なくしたうえで、新書1冊で通史をやるというかなり大胆な試みですが、日本史の流れがとてもよくわかります。歴史音痴の私だけではなく、歴史好きの人も「こんなまとめ方があるのかと感心した」と言っていました。

 他の新刊3点をご紹介します。
コンビニは通える引きこもりたち』(久世芽亜里・著)は、引きこもり対策で実績のあるNPOスタッフが、現在の引きこもりの状況と、事態の改善策をわかりやすく説いた1冊。引きこもりというと、部屋からまったく出ないような若者をイメージしてしまいますが、これもまたテレビなどの影響が大きいようです。実際には結構外出しているし、年齢も高齢化している。そんな意外な話が詰まっています。

天才 富永仲基―独創の町人学者―』(釈 徹宗・著)は、日本仏教思想史に革命を起こした江戸時代の町人学者の思想と人生を辿った......というとずいぶん難しい感じですが、入門書としても読めます。「富永仲基ってさあ」という感じで話せるようになると、一部の人には「おおっ! できる」と思われるはず。『絶対に挫折しない日本史』と併読してもいいかもしれません。

インサイドレポート 中国コロナの真相』(宮崎紀秀・著)を読むと、何となくうやむやにされつつある中国の責任を改めて考えさせられます。生物兵器説はさておくとしても、これだけの問題になったウイルスが結局いつから流行を始めたのか、といった基本的なことですらいまだに確定していません。実際に何が起き、中国共産党は何を隠したのか、現地で取材を続けている記者からの戦慄レポートです。

 半沢さんはすごいなあと思いつつも、自分はあまりあちこちと揉めたくもない。そんなことを考えている今日このごろです。

  今月も新潮新書をよろしくお願いいたします。
2020/09